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Mon, 15 December 2025

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チャールズ国王の戴冠式 現地の新聞と街の様子

チャールズ国王の戴冠式現地の新聞と街の様子

5月6日にロンドン中心部ウェストミンスター寺院で、チャールズ国王の戴冠式が執り行われた。6〜8日は戴冠式とそれに続くイベントで、3日間のコロネーション・ウィークエンドとなり、ロンドンの街中では多くの市民が思い思いの形で国王の戴冠を祝った。

戴冠式当日、翌日の新聞

「デーリー・テレグラフ」紙(2023年5月6日)

「デーリー・テレグラフ」紙(2023年5月6日)

I come not to be served but to serve
私は奉仕されるためでなく、奉仕するためにきた

「タイムズ」紙(2023年5月6日)

「タイムズ」紙(2023年5月6日)

「ガーディアン」紙(2023年5月6日)

「ガーディアン」紙(2023年5月6日)

「デーリー・エクスプレス」紙(2023年5月6日)

「デーリー・エクスプレス」紙(2023年5月6日)

DAY OF DESTINY
運命の日

「デーリー・ミラー」紙(2023年5月6日)

「デーリー・ミラー」紙(2023年5月6日)

He will not only wear the crown, he will bear the weight of history…and the hopes of a nation
チャールズ国王は王冠をかぶるだけでなく、歴史の重み...そして一国の希望を背負うことになる

「ミラー」紙(2023年5月7日)

「ミラー」紙(2023年5月7日)

「オブザーバー」紙(2023年5月7日)

「オブザーバー」紙(2023年5月7日)

King Charles Ⅲ
His crowning moment

チャールズ国王最高の瞬間

「タイムズ」紙(2023年5月7日)

「タイムズ」紙(2023年5月7日)

CORONATION OF
KING CHARLES III

国王チャールズ3世の戴冠式

「サン・オン・サンデー」紙(2023年5月7日)

「サン・オン・サンデー」紙(2023年5月7日)

CROWNING GLORY
戴冠の栄光

「サンデー・テレグラフ」紙(2023年5月7日)

「サンデー・テレグラフ」紙(2023年5月7日)

SOUVENIR EDITION
特別記念版

「サンデー・エクスプレス」紙(2023年5月7日)

「サンデー・エクスプレス」紙(2023年5月7日)

HAPPY AND GLORIOUS
幸福と栄光を

「iウィークエンド」紙(2023年5月6,7日)

「iウィークエンド」紙(2023年5月6,7日)

Charles III in battle to secure future of monarchy
王室の未来を守るチャールズ国王の戦い

戴冠式ウィークエンドのロンドン

7日のストリート・パーティーの様子。近隣の住人が食べ物や飲み物を持ち寄り、和気あいあいとした雰囲気だ7日のストリート・パーティーの様子。近隣の住人が食べ物や飲み物を持ち寄り、和気あいあいとした雰囲気だ

ピムスやケーキ、カップ・ケーキなどデザートがいっぱいピムスやケーキ、カップ・ケーキなどデザートがいっぱい!

パイなど英国らしい料理も並んでいますパイなど英国らしい料理も並んでいます

戴冠式2日前のザ・マルにはもう場所取りをする人の姿が戴冠式2日前のザ・マルにはもう場所取りをする人の姿が

英国旗と戴冠式の記念旗が飾られたピカデリー・サーカス英国旗と戴冠式の記念旗が飾られたピカデリー・サーカス

ロンドン中心部のバーリントン・アーケード。足元には国王のロイヤル・サイファー(紋章)がロンドン中心部のバーリントン・アーケード。足元には国王のロイヤル・サイファー(紋章)が

 

歴史に新たな1ページが刻まれる日 - チャールズ国王戴冠式の全て

歴史に新たな1ページが刻まれる日チャールズ国王戴冠式の全て6 May 2023 / Westminster Abbey

イースターの恒例行事「ロイヤル・マウンディ・サービス」でヨーク大聖堂を訪れたチャールズ国王夫妻イースターの恒例行事「ロイヤル・マウンディ・サービス」でヨーク大聖堂を訪れたチャールズ国王夫妻

来たる5月6日(土)〜8日(月)は、世界各国から要人が参加するチャールズ国王の戴冠式を筆頭に、国王の即位を記念する一連の祝賀行事が開催される「戴冠式ウィークエンド」だ。お祝いムードが最高潮に達している一方で、昨年6月にエリザベス女王即位70周年のプラチナ・ジュビリー、そして同年9月に女王の死去など、女王の後を継ぎ、同月に即位したチャールズ国王をはじめ、英王室にとってこの1年は目まぐるしいものだった。今回は、戴冠式に関する情報やスケジュール、関係者の人物まとめや世間の反応など、王室を取り巻く事情を整理してみた。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)
※本記事は5月2日時点での情報を基にまとめたものです。

参考: www.royal.ukwww.rct.ukwww.bbc.co.ukwww.independent.co.ukwww.theguardian.comhttps://news.sky.comwww.harpersbazaar.comhttps://commonslibrary.parliament.uk ほか

戴冠式でお祝いムードのロンドン

戴冠式(Coronation)の意味と行う理由

君主がその威厳ある力を新君主に正式に授与し、称号と権力の譲渡を示すもので、何千人もの参列者の前で儀式用の宝器を与え、王冠を新君主の頭にかぶせる政治的かつ宗教的な儀式。今日の英国では、君主は現行の君主が死去するとすぐに王位を継承することが法律で定められているため、昨年エリザベス女王が亡くなった時点でチャールズ国王はすでに即位している。よって、厳密には戴冠式は現在の王室に絶対必要なものではないが、バッキンガム宮殿は「式典とお祝いの機会であると同時に、厳粛な宗教儀式でもある」と述べている。そのため、これらの儀式は新しい君主にとって重要な行事として現在まで存在し続けている。

戴冠式は、もともと国家への教会の関与を増やすという中世ごろの欧州の伝統に影響を受け、複数の個人が王位を主張する不安定な社会に安定をもたらす必要性から生まれたもの。式典の核となる儀式は、聖職者が君主を聖油で清める「塗油」。これは、支配者に神の恵みが与えられたことを示している。戴冠式で使用されるアイテムは代ごとに変更されてきた可能性があるものの、儀式の大まかな手順は約1000年の間ほぼ同じ形式を取っている。君主制を採用する欧州の国でいまだに宗教的な戴冠式を行なっているのは英国だけ。今回はエリザベス女王が即位した1953年以来70年ぶりの戴冠式となり、2022年に74歳を迎えたチャールズ国王は、英国史上最年長の戴冠者となる。

チャールズ国王の人物像については特集記事「チャールズ皇太子にまつわるABC」をご覧ください。

エリザベス女王のときと何が違う?戴冠式にまつわるエトセトラ

戴冠式の週末は今年だけ特別祝日が設けられるなど、国を挙げての大きな行事になる。まずは今年の戴冠式にまつわる事柄や、戴冠式で使われるレガリア、また世間の反応などを見てみよう。

現代の価値観に見合う1. スリム化された戴冠式に

1953年のエリザベス女王の戴冠式には8251人のゲストが出席したが、今回は2000人と前回に比べかなり縮小される。戴冠式を簡素化させた理由についてチャールズ国王は、国中の多くの人々に現在影響を与えている生活費の危機を「非常に認識している」とされており、王室関係者が「デーリー・ミラー」紙に語った内容によると、今回は、意図的に「時間を短く、規模を小さく、予算を抑えたものにする」とのこと。また、別の情報筋によれば、現代の君主制を象徴するイベントになることを踏まえ、「国王は昔から、スリム化された君主制の合理化を提唱していた。今回の一連の構成は、国王のビジョンに合っているといえる」、「母親のレガシーを引き継いでいきたいという想いを抱かれており、これには国民の日々の暮らしを自分も認識し続けることも含まれる」のだという。

3時間超かかった前回の戴冠式と比べ、時間も大幅に短縮。また、国王は戴冠式で着られる伝統的で豪華な服装でなく、代わりに軍服を選ぶというアドバイスも取り入れる予定だ。

また、宗教的・文化的にはより多様な式になると予想されており、事前に公開された計画によれば、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、仏教徒などさまざまな宗教の信徒を対象とした式になるそうだ。国王は戴冠式で英国国教会に宣誓することを認めているが、全ての信仰を尊重する英国を率いることを望んでいると明らかにしている。

国王、王妃がかぶる2. 王冠の秘密

写真左上から時計回りに、支配者の宝珠、聖エドワード王冠、十字付きの王笏、鳩の付いた王笏、君主の指輪。1953年の戴冠式で使われたレガリアが再び使われる写真左上から時計回りに、支配者の宝珠、聖エドワード王冠、十字付きの王笏、鳩の付いた王笏、君主の指輪。1953年の戴冠式で使われたレガリアが再び使われる

チャールズ国王は、17世紀から伝統的に戴冠式の王冠としてのみ使用されてきた、重さ2.23キログラムの純金製聖エドワード王冠(St Edward's Crown)を戴冠。これは1649年に当時の国会議員によって溶かされてしまったオリジナルの王冠の代わりに、1661年にチャールズ2世のために作られたもの。戴冠式後、国王は大英帝国王冠(Imperial State Crown)を新たにかぶり、ウェストミンスター寺院を出て、バッキンガム宮殿のバルコニーから国民に手を振るときまで着用する。

この王冠は英議会開会式の儀式などに使われており、最後に公式に登場したのは昨年9月のエリザベス女王の国葬で、棺の上に置かれたときだった。3つの大きな宝石を取り付けた透かし彫りの金枠に、2868個のダイヤモンド、17個のサファイア、11個のエメラルド、269個のパールがセットされているが、ダイヤモンドに南アフリカで採掘された世界最高峰の原石「カリナン」が含まれており、貧しい植民地から略奪したものとして、ダイヤモンドを同地に返還する呼びかけも起こっている。

一方、カミラ王妃はメアリー女王王冠(Queen Mary's Crown)をかぶる予定。持続可能性の観点から、新たな王冠を作らずに既存の王冠を戴冠式に再利用するのは、近年の王室史上初めて。王冠からインド産の大きなダイヤモンド「コ・イ・ヌール」が取り除かれ、代わりにエリザベス女王の私物のコレクションから選ばれたダイヤモンドが嵌め込まれるが、この中には先のカリナンが含まれており、こちらも論争の対象となっている。

大英帝国王冠(写真左)メアリー女王王冠(同右)大英帝国王冠(写真左)メアリー女王王冠(同右)

戴冠式に必須の物品3.「レガリア」って何?

「レガリア」(Regalia)とは、ロンドン塔で管理されている王権、君主を象徴する神聖なアイテムのこと。英王室は、国を代表するような戴冠宝器(Crown Jewels)を100点以上所有しており、戴冠式の最中に使用されるレガリア(Coronation Regalia)もそこに含まれている。レガリアのラインナップは戴冠式ごとに微調整されるが、今年は先の王冠のほか、チャールズ2世の戴冠式のために1661年に作られ、主権者の力を示し優れた統治を表した、十字付きの王笏(Sovereign’s Sceptre with Cross)、同年作の公正と慈悲を象徴する鳩の付いた王笏(Sovereign's Sceptre with Dove)、地球を模した球体上に十字架をセットすることでキリスト教の世界を象徴し、君主の力を表現した支配者の宝珠(Sovereign’s Orb)、オーク材に金箔を貼り権威を象徴した2本の職杖(Maces)、王権を象徴し、ベルベットで覆われた木製の(さや)に収められた銀メッキの柄を持つ鋼の刃、国家の剣(Sword of State)、行進時に使われる一時的な正義、精神的正義、慈悲を象徴する3本の剣(the Sword of TemporalJustice, Spiritual Justice, Mercy)、聖油を入れる小瓶として、羽を広げたイヌワシの形に作られた金のアンプラ(Ampulla)と、レガリアの記録史上最古のものとされる、聖油を取るための戴冠式スプーン(Coronation Spoon)、1661年に作られ、後に金や革、ベルベットの改良が加えられた騎士団を象徴する拍車(Spurs)、騎士団と軍事指導者の古代のシンボルに関連しているとされ、「誠実さと知恵のブレスレット」と呼ばれるアーミル(Armills)、ダイヤモンドと十字型にセットされたルビーとサファイアで作られた君主の指輪(Sovereign'sRing)と、カミラ王妃が身に着けるルビーでできた王妃の指輪(Queen Consort's Ring)などが選ばれている。

戴冠式スプーンは12世紀に作られた。2本の指先を浸せるよう、スプーン中央が分割されている戴冠式スプーンは12世紀に作られた。2本の指先を浸せるよう、スプーン中央が分割されている

家族にもいろいろある4. 王室メンバーの裏事情

国家行事である戴冠式の招待客には、王室メンバーに加えて、首相や議会の代表者、他国の国家元首、および世界中の王族が含まれ、日本からは秋篠宮ご夫妻が参列する。バッキンガム宮殿によると、ハリー王子は戴冠式に出席し、メーガン妃と子どもたちは米国に残る。欠席理由に、戴冠式当日の5月6日はアーチー王子の4歳の誕生日であるためとされているが、ハリー王子は今年の1月に家族との確執など衝撃的な内容を盛り込んだ「ヘンリー王子回顧録 Spare」を出版するなど、家族間の問題はいまだに解決できておらず、それらを反映した結果なのではという憶測が飛び交っている。

なお、性的人身売買で有罪判決を受けた米投資家ジェフリー・エプスタインとのつながりをめぐって、2019年に王室の職務を辞任したアンドリュー王子は出席の予定。

英国でも話題になった「ヘンリー王子回顧録 Spare」英国でも話題になった「ヘンリー王子回顧録 Spare」

戴冠式を象徴する目玉料理5. 今回はキッシュに

ポピュラーな英国料理の一つで、カレー風味のクリーム・ソースで和えた鶏肉料理「コロネーション・チキン」は、もともと1953年の戴冠式のときに考案された料理だ。今回の戴冠式の目玉料理は、チャールズ国王とカミラ王妃が直々に選んだ「コロネーション・キッシュ」。二人はストリート・パーティーのビッグ・ランチとして振る舞われることを望み、低コストの材料でできるキッシュを王室専属のシェフと共に考えた。材料にはほうれん草、そら豆、チーズ、タラゴン、ラードが含まれているが、ベジタリアンやヴィーガンなど、食の好みや嗜好に合わせて柔軟に味を変えられる、複雑すぎないレシピになっている。
レシピはこちらから。www.royal.uk/the-coronation-quiche

戴冠式に関する社会の反応

戴冠式に関する社会の反応近年、王室離れも目立ってきている英国社会。人々は今回の戴冠式をどのように受け止めているのだろうか。

戴冠式の費用は誰が出す?

英政府は「国家行事であるため、戴冠式の費用は英政府が負担する」としているものの、予算の具体的な金額は現在も明らかにされておらず、予想される総費用や資金調達についての内訳に対する発表もない。戴冠式をスリム化するとはいえ数百万ポンド(約3300万〜1億円)の出費は必至で、納税者に負担がのしかかることは十分にあり得る話だ。一方の国民は高騰する生活費にあえぎ、医師や教師、そのほかの公務員たちによる賃金をめぐるストライキも頻発。批評家からは、戴冠式は「血税の浪費である」と烙印を押されている。

4月中旬に行われたYouGovの調査によると、約51パーセントが式典に税金が使われるべきではないと考えており、約32パーセントが税金の使用に賛成、また約18パーセントが分からないと答えた。年齢別に見てみると、調査対象となった4246人の成人のうち、18〜24歳までの62パーセントが税金の使用に反対で、15パーセントのみが賛成だった。若い世代の王室離れが少しずつ進んでいるのが実態だ。

君主制に対する世間の反応

2022年の即位後、英国各地を訪問していたチャールズ国王夫妻だが、交流中に卵を投げつけられるなど君主制反対派の動きが目に付くようになっている。こういった人々は絶大な人気とその在位の長さを誇ったエリベス女王の治世ではなりを潜めていたが、君主が変わった途端吹き出すように現れ始めたともいえる。

とはいえ、YouGovの最近の調査によると58パーセントが君主制維持を支持し、国家元首の支持は26パーセントと前者の方が圧倒的に多い。しかし、世代別に見ると、君主制支持の65歳以上は78パーセントであるのに対し、18〜24歳はわずか32パーセント。この世代は、国家元首を好む割合が38パーセントと高く、また別の調査で「王室に興味がない」と答えた人は78パーセントにも上った。英王室に興味を持てない原因の一つに、広い宮殿や敷地を無駄遣いしている、また気候変動について講演しているにもかかわらず、プライベート・ジェットなどを過剰に使用していることが考えられている。

戴冠式ウィークエンドのスケジュール

英王室の戴冠式は1000年以上の歴史を持つ由緒正しきイベントだが、その習わしを現代の世相に柔軟に変更させることで今日まで受け継がれてきた。さまざまなメディアですでに報道されているが、改めて「戴冠式ウィークエンド」の詳細を一通りまとめた。

5月6日(土)

06:00〜

バッキンガム宮殿からウェストミンスター寺院まで国王が移動する行列(Procession)がスタート。バッキンガム宮殿の外には退役軍人やNHSスタッフ、ソーシャル・ケアのスタッフなどの招待客専用のスタンドが設置される。一般客が戴冠式の雰囲気を味わえる最初のタイミングで、行進のルート沿いに設けられた指定の場所で観覧が可能だ。特に、行進がよく見えるザ・マル(The Mall)、ホワイトホール(Whitehall)、パーラメント・スクエア(Parliament Square)周辺は大変な混雑が予想されるため、観覧を希望の方は当日朝6時の開放と共に場所取りをするのがお勧め。

なお、指定の観覧エリアがいっぱいになった時点で、近隣のハイド・パーク(Hyde Park)、グリーン・パーク(Gr een Park)、セント・ジェームズ・パーク(St James's Park)に特設されたパブリック・ビュー会場へ誘導される。

戴冠式の行進ルート戴冠式の行進ルート

09:45〜

ウェストミンスター寺院への行列に参加する近衛兵など、200人弱の軍人の準備が始まる。最終的に約1000人がルートに沿って行進することになるが、エリザベス女王の1953年の戴冠式に比べると参加人数ははるかに少なく、ルートの長さも4分の1の距離になる。

10:20〜

行列がバッキンガム宮殿を出発。ザ・マルに沿ってトラファルガー・スクエア(Trafalgar Square)まで移動し、その後ホワイトホールとパーラメント・ストリート(Parliament Street)を下ってパーラメント・スクエアとブロード・サンクチュアリ(Broad Sanctuary)へ。ウェストミンスター寺院西側のグレート・ウェスト・ドア(Great West Door)に到着し終了。チャールズ国王とカミラ王妃は、エリザベス女王がダイヤモンド・ジュビリーで使ったダイヤモンド・ジュビリー・ステート・コーチに乗って移動する。

2014年に初使用されたダイヤモンド・ジュビリー・ステート・コーチ2014年に初使用されたダイヤモンド・ジュビリー・ステート・コーチ

11:00〜

10時53分にウェストミンスター寺院に到着予定。式典は11時開始で、チャールズ国王はグレート・ウェスト・ドアから同寺院の中へ入り、ネイヴ(身廊)を進む。この時両脇に座るのは王室メンバー、スナク首相やこれまでの首相、世界各国から招かれた要人たち。演奏の曲は全て今回のために作られており、「エビータ」「キャッツ」「オペラ座の怪人」などヒット作を生み出したミュージカル音楽界の巨匠、英作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーの曲を含む、全12曲と、チャールズ国王の父、故フィリップ殿下を偲ぶギリシャ正教会の曲が流される。

国王のローブの裾を持つページ・オブ・オナー(Page of Honour)が登場。チャールズ国王の孫ジョージ王子と、カミラ王妃の孫ローラ、エリザ、ガス、ルイス、フレディなど8名の少年が担当する。また、選ばれた公爵や退役軍人などが儀式的な役割(Ceremonial roles)となり、レガリアを運び、国王夫妻に授ける。

ウェストミンスター寺院ウェストミンスター寺院

儀式は約2時間戴冠式のおおまかな流れ

1. The recognition(承認)

チャールズ国王が、アングロ・サクソン時代にさかのぼる「人々」(the people)へ提示される儀式。カンタベリー大主教のジャスティン・ウェルビー大司教が、戴冠式の椅子の横に立ち、修道院の両側に向かってチャールズ国王を「疑う余地のない王」と宣言した後、出席者に敬意と奉仕を示すよう求める。その後出席者が「神よ、王をお守りください!」(God Save the King!)と叫び、トランペットが鳴る。

2. The oath(宣誓)

カンタベリー大司教が、チャールズ国王に、統治中に法律と英国国教会を支持することの確認行い、国王が聖なる福音に手を置き、戴冠式の誓いを立てる。ここで、チャールズ国王は誓いとは別に複数の信仰を認める言葉を追加するかもしれないといわれている。

3. The anointing(塗油)

チャールズ国王が儀式用のローブを脱ぎ、戴冠式の椅子に座る。大司教がコロネーション・スプーンに聖油を取り、指を浸して王の頭、胸、手と十字架の形に沿って聖油をかけ、英国国教会の長でもある国王の精神的地位を強調。なお、この儀式は前回同様、テレビでは放映されない。聖油はこれまで動物由来の成分が入っていたが、現在の世相を反映し、植物由来のものを使用する。

4. The investiture(認証)

支配者の宝珠や指輪、王笏などのレガリアがチャールズ国王に授けられた後、聖エドワード王冠を戴冠。その後トランペットが鳴り響き、英国中で銃の敬礼が行われる。

5. The enthronement and homage(即位と忠誠)

王位に就任。伝統的に王族と貴族が新王の前にひざまずき、忠誠を誓い、右手にキスをして敬意を表す儀式があるが、今回は一部省略される見込み。カミラ王妃は宣誓はなく、塗油して王妃(Queen)に即位する。

その後、両陛下は台座から下りて聖エドワード礼拝堂に入り、チャールズ国王は聖エドワード王冠から大英帝国王冠にかぶり直し、国歌斉唱と共に修道院の外に出て、ゴールド・ステート・コーチに乗ってバッキンガム宮殿に戻る。なお、前回の戴冠式ではピカデリーやオックスフォード・ストリートを通過したが、今回は行きとほぼ同じルートをたどる。その後、バッキンガム宮殿の庭園で英連邦軍から敬礼を受け、同宮殿のバルコニーに登場。儀式用の6分間のフライパスが開始され、華やかな雰囲気のなかで式は締めくくられる。

椅子に収められる「運命の石」

非常に古めかしく見える戴冠式の木製の椅子だが、完成当時は金メッキ加工が施され、色ガラスのモザイクがはめ込まれたきらびやかなものだった。時代と共に塗装がはげ、質素な見た目になったが、18世紀にはお金を払えば椅子に自由に座ることができ、観光客や聖歌隊員などによって、背面や座面の下にイニシャルや何かしらの文字を掘られたり、20世紀にはサフラジェットと思われる集団の破壊対象として椅子の一部が粉砕したりなど、大事な椅子とは思えないほどの扱いを受けた時期もあった。

座面の真下に見える空洞部分は、神聖な岩で「運命の石」とも呼ばれる「スクーンの石」(Stone of Scone)の収容スペースとなっている。この石は、紀元前700年にスペインからアイルランドに持ち込まれ、後にアイルランドを統治したスコットランドの所有物となり、スコットランド主権の象徴であった。

しかし、1296年にイングランド王国のエドワード1世が略奪。1996年にスコットランドに返還された。今回の戴冠式でも使用される予定で、スコットランドのエディンバラ城から厳重な管理かつ極秘ルートを通ってロンドンまで移送される。

戴冠式の椅子は1297〜1300年に作られ、Coronation ChairまたはEdward's Chairと呼ばれる。座面の下のグレーの部分がスクーンの石戴冠式の椅子は1297〜1300年に作られ、Coronation ChairまたはEdward's Chairと呼ばれる。座面の下のグレーの部分がスクーンの石

戴冠式を観る

● 自宅で観賞

当日は現地に行かなくても、BBC Oneのテレビ放送やiPlayer、またラジオでの生中継で現地の様子が楽しめる。
www.bbc.com/mediacentre/articles/2023/bbc-how-to-watch-the-coronation-and-coronation-concert

● 現地で観賞

行列ルート沿いの観覧エリアで、戴冠式の行列を直接見ることができる。観覧エリアは朝6時から開放されるが、その前に到着しないよう勧告が出されているので注意。以下のリンクの「Procession viewing areas - map and facilities」から、観覧エリアそばのトイレや応急処置の場所などの詳細の地図が閲覧できる。
www.gov.uk/government/publications/the-coronation-of-their-majesties-king-charles-iii-and-queen-camilla/how-to-watch-the-coronation-and-processions-saturday-6-may

● 歴史的な瞬間をパブで祝おう!

5~7日の間、イングランドとウェールズにあるパブでは、2時間延長して営業することが許可された。英国人らしくパブで過ごすのも一興だ。

5月7日(日)

近隣住民やコミュニティーで、一緒に食事や楽しみを分かち合う「ビッグ・ランチ」が開催。また、20時から英国の多様な文化を祝い、テイク・ザットなどが出演し、音楽や演劇、ダンスなどのパフォーマンス「コロネーション・コンサート」がある。また、ショーの一環として、国内の特定の場所で「ライト・アップ・ザ・ネーション」と題し、プロジェクション・マッピングやドローン・ショー、イルミネーションでライトアップも。この模様はBBC One、BBC iPlayer、BBC Radio 2、BBC Soundsで生放送されるほか、ロンドンのセント・ジェームズ・パークでパブリック・ビューイングが行われる。

5月8日(月)

月曜日は特別祝日となり、ボランティア活動への意識を高めることを目的とした「ビッグ・ヘルプ・アウト」(TheBig Help Out)への参加が奨励されている。ローカルのコミュニティー活性化のため、英国の何千もの団体がボランティアを募集中だ。参加の仕方はリンクを参照。
https://thebighelpout.org.uk

 

英国ニュースダイジェスト
創刊30周年を迎えて

「英国ニュースダイジェスト」は、2015年9月18日を以て、創刊30周年を迎えます。改めまして、広告主の皆様と読者の方々のご支援に心より感謝申し上げます。

この機会に、弊誌の少しユニークな歴史について、簡単にご紹介させていただきます。

弊誌は、スコットランドにあるスターリング大学の日本語研究室で創刊されました。初代編集長の名は、ブライアン・ケイ。広島で3年にわたり技術者として働いた経験を持ち、当時は同大学における日本語研究室のコンサルタントを務めていました。

そのころ、正式な文書を執筆するために一般的に使われていた道具はワープロ。しかも英国では日本語のタイピングができるワープロは希少という時代でしたが、とある日系メーカーより最新鋭のワープロを2台ご寄贈いただき、日本語情報誌 の発行が可能になったと聞いています。やがてロンドンにオフィスを移転し、姉妹誌となるフランスニュースダイジェスト、ドイツニュースダイジェストを創刊。ケイ氏が2000年に死去した後は経営母体が何度か入れ替わり、2005年より森美江が発行人を務めさせていただいています。また現在、弊社が手掛ける業務は英国ニュースダイジェストの発行にとどまらず、ウェブサイトやSNSの運営、さらにはウェブサイト・デザイン制作や印刷手配、翻訳とその内容を多様化させてきました。

現在の弊社には、創刊当時の社員は誰一人残っていません。弊社社員よりも長く英国ニュースダイジェストとお付き合い いただいている広告主及び読者の方々から、その歴史を教えていただくこともしばしばです。9月18日を創刊30周年の節目として迎えるに当たり、現在お世話になっている方々だけでなく、これまで弊社にかかわってくださったすべての皆様へ感謝とお礼の気持ちを示したいとの思いから、弊誌の歴史について簡単に触れさせていただきました。

引き続き英国ニュースダイジェストの発行を中心とする様々なサービスを提供することで、少しでも皆様のご恩に報いることができるよう、社員一同取り組んで参ります。

今後とも、英国ニュースダイジェストをよろしくお願い申し上げます。

英国ニュースダイジェスト
編集長 長野雅俊

30年を振り返る

1985年の創刊から30年。その間、時代は流れ、英国ニュースダイジェストもその形を変え続けてきました。創刊号から最新号まで、一面(表紙)を5年ごとに振り返ることで、その移り変わりをまとめてみました。
1985年9月18日発行 創刊号
記念すべき英国ニュースダイジェストの創刊号。見た目はかわら版のよう
1985年9月18日発行
1990年9月19日発行
「発行所」の欄には、既にロンドンに移転したオフィスの住所が記載
1990年9月19日発行
1995年10月5日発行
紙質が上質に。欧州連合の統一通貨名が「ユーロ」となったニュースがトップ
1995年10月5日発行
2000年10月19日発行
初代編集長にして後に社長となったブライアン・ケイ死去のニュースが
2000年10月19日発行
2005年9月22日発行
全ページがカラー印刷に。この年に号数は1000号を超えた
2005年9月22日発行
2010年9月23日発行
記事がすべて横書きになり、右綴じから左綴じに変わる
2010年9月23日発行
2015年9月17日発行
最新号。今後も時代の趨勢(すうせい)を見つめながら変わり続けていきます
2015年9月17日発行
 

Eurovision Song Contestのトリビア

今年はリヴァプールで開催Eurovision Song Contestのトリビア

ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト(以下ユーロヴィジョン)は、主に欧州地域の国が出場できる視聴者参加型の音楽コンテスト。各国のパフォーマーが次々登場するライブ中継を観賞する楽しさはもちろんのこと、国際政治関係が色濃く感じられる決勝投票など、最後まで見どころがみっしり詰まっている。まだ観たことがない人は、今年こそぜひ観賞してみてはいかがだろうか。

準決勝に進んだチームの組み合わせの抽選会が、英北部リヴァプールで行われた準決勝に進んだチームの組み合わせの抽選会が、英北部リヴァプールで行われた

Eurovision Song Contest

5月9日(火)、11日(木)、13日(土)
英国時間20:00〜
M&S Bank Arena Liverpool
https://eurovision.tv

視聴方法: 会場チケットは3月にソールド・アウトになったため、生放送での観覧のみ。BBC OneまたはiPlayerで生放送される。iPlayerでの観覧は事前のアカウント開設が必要。

今年の英代表はシンガー・ソングライターのメイ・ムラー(Mae Muller)。2021年にNEIKED、Polo Gとコラボした「Better Days」がTikTokで話題になった。ユーロヴィジョンでは決勝から進出。「I Wrote A Song」を引っ提げて優勝を狙う。

1. ご長寿音楽コンテスト放送としてギネスに登録

ユーロヴィジョンは、1956年の第1回目を皮切りに、新型コロナウイルスが流行した2020年を除き毎年開催されている。第二次世界大戦後、欧州各地で放送網が整ってきたことを受け、「国境を越えたテレビ放送を通じ、欧州諸国間の協力関係を深める」ことを目的に、欧州放送連合(EuropeanBroadcasting Union=EBU)が1950年に誕生。その実現の一つとして、ユーロヴィジョンは国際同時生放送という技術面でのテストという役割を担っていた。初回はオランダ、スイス、ベルギー、ドイツ、フランス、ルクセンブルグ、イタリアが参加し、これまでにオーストラリアを含む52カ国が参加している。

今年のユーロヴィジョンの会場となるリヴァプールのM&S Bank Arena Liverpool今年のユーロヴィジョンの会場となるリヴァプールのM&S Bank Arena Liverpool

2. 歌詞は架空の言語でもOK

パフォーマーの人数や演奏の事前録音など、参加規則は時代に合わせかなり変更されてきたが、重要な歌詞の言語規制もコロコロと変わっている。初期段階では特に制限が設けられでなかったものの、後に2曲中1曲は自国の公用語で歌わなければならなかったり(現在は1曲を披露)、公用語のみが許されたりした時期も。現在は英語、公用語に加え、誰も理解できない架空の言語の歌詞も認められている。これまで最も多くの言語を含んだ曲は、1973年に出場したノルウェー代表ベネディク・シンガーズ(Bendik Singers)の「It's Just A Game」で、12もの言語で歌われた。

3. ABBAが有名になったきっかけ

当日はユーロヴィジョン不参加国でも放映されるため、毎年約1億6000万人もの視聴者がおり、放映後数カ月は街の至る所で選出曲を耳にすることになる。1974年のスウェーデン代表、ABBAや、2014年のオーストリア代表で、髭を生やしたドラァグ・クイーンのコンチータ・ヴルスト(Conchita Wurst)など、後にスターやゲイのアイコンとなり、世界を席巻したパフォーマーを生んできた。一方で、なぜ選ばれたのかと思わせるような、誰も入り込めない世界観のパフォーマーが出てくることもしばしばあり、新生スターの輩出と同時に一発屋も量産しがちだといわれている。

4. 各国代表による投票=国際政治

決勝進出のパフォーマーには視聴者の投票が、優勝者決定には視聴者と各国を代表する審査員の投票によって決まる。また、今年から指定された不参加国の視聴者もオンライン投票が可能になった(指定国は近日発表)。例年目が離せないのは代表者による投票。紛争や戦争といった国際関係の政治的緊張が走る時期のユーロヴィジョンは、音楽的な要素以上に国同士の政治が絡んだ投票になるからだ。北欧・バルト3国同士で入れ合うといった、毎年同じ国に投票している国、変わる国などがあり、日本人にとっても興味深い内容となるだろう。

5. 今年はリヴァプールで開催

優勝国が翌年の主催国になるのが伝統だが、昨年の優勝国ウクライナは現在ロシアとの紛争の真っ最中。よって今年は「United By Music」のスローガンのもと、英北部リヴァプールが代わりを務める。英国は25年ぶり9回目の主催国で、最も多く開催地を提供している国となった。

 

医療、鉄道、教育…… - ストライキに揺れる英国

医療、鉄道、教育……ストライキに揺れる英国

4月半ば、NHSイングランドのジュニア・ドクターによるストライキが4日間にわたって実施された。これによって手術を含む35万件の予約がキャンセルされたという。それでも英国民の多くはこうした一部のストライキの実施に対し支持を惜しまない。今回の特集では、2022年の夏から続くさまざまな業種によるストライキの実態や、いつ果てるとも知れない国や会社経営者vs労働組合の争いについて紹介する。(文:英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.parliament.ukwww.ons.gov.ukwww.rcn.org.ukwww.gov.ukwww.nikkei.comwww.theguardian.comwww.bbc.comwww.y-history.nethttp://kokkororen.com ほか

2023年2月1日、賃上げと労働環境の改善を求めて、4万人がロンドンの街で抗議デモを行った2023年2月1日、賃上げと労働環境の改善を求めて、4万人がロンドンの街で抗議デモを行った

ストライキの仕組み

労働組合がストライキを実施するまでの流れや手続きは下記の通り。通常、団体交渉が決裂し、協議が難航した時点でストライキの検討が行われる。ただし「政治スト」「支援スト」や、労働組合ではなく個人で行うスト、事前告知のないストには、刑事や民事免責の保護がつかない。さらにストには、労働組合員全員が参加する全面ストのほか、一部の労働組合員のみが参加する部分スト、期間を定めない無期限ストや、一定期間だけ行う時限ストなど、さまざまな形態がある。

① ストライキ実施可否を協議

組合員もしくは組合員によって選ばれた代表委員による無記名投票。過半数(鉄道や医療といった公益事業の場合は40パーセント)を超える賛成が必要。

② 予告通知

ストライキを行う際には、少なくとも7日前に雇用主に伝える。予告通知なしにストライキを行うと、責任者は処罰の対象となる。また、2022年7月21日以降、雇用主は、ストライキの期間中に人材派遣会社から臨時の熟練労働者を雇うことが可能になった。

③ ストライキ実施

ストライキ中は、組合員にその期間中の給与や年金権利は発生しない。ただし死亡保険や私的医療保険などは継続。また、最初の12週間は解雇などの不利益な処置は受けない。ただし、それ以降は解雇の保護はなくなる。ストライキに参加しなくとも労働組合から処分されることはない。

ストライキにまつわる5つの疑問

英国では現在さまざまな分野でストが起きている。公共交通機関や郵便局のストが相次ぎ、学校も教職員のストによる閉鎖が多発。昨年は法廷弁護士のストのために裁判所の業務も滞っていたほか、医療従事者や公務員による労使協議は今も続いている。私たち利用者にも大きな影響を与える、英国のストライキにまつわる今さら聞けない事実を紹介しよう。

① なぜストは終わらないのか

現在英国の物価は年率11パーセントで上昇しており、これは過去40年で最速のペースだといわれている。賃金上昇分より物価が上がっているため家計が圧迫され、あらゆる業界で労働条件や、賃金と年金をめぐるストライキが起きている。労働組合が会社側との交渉で、順当だと思える給与水準が確保できない場合や、会社側と妥結できない場合はストライキが発生するが、新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、ストライキは増え続け、1980年代以降最大規模といわれるストが立て続けに起きている状況だ。

公務員が加入する公共商業サービス組合(PCS)は、まだ引き下がるつもりはないとして、4月28日に13万3000人が参加する大規模なストライキ計画を発表している。業種によるものの、労働組合側が10~19パーセントの賃上げを要求しているのに対し、民間企業では前年同期比で6.9パーセント増、公共に至っては2.7~5パーセント増の賃上げに留まっているのが現状で、労使交渉は難航している。

教員や公務員も2023年2月1日のWalkout Wednesday(抗議の水曜日)と呼ばれるデモに参加。この日はあらゆる業種の50万人が一斉にストライキを実施した教員や公務員も2023年2月1日のWalkout Wednesday(抗議の水曜日)と呼ばれるデモに参加。この日はあらゆる業種の50万人が一斉にストライキを実施した

② ストは国民から支持されているのか

看護師やジュニア・ドクターのストによって患者たちは診療や手術の延期を余儀なくされた。ただ、人手不足による激務の中で、医療に従事してくれているスタッフの昇給と待遇改善を求めるストには国民の支持も多く、2023年1月の「ガーディアン」紙によれば、57パーセントの国民が看護師のストをサポートすると答えている。次に多いのが救急隊員のストで52パーセント、教師のストには40パーセント、鉄道労働者のストでは38パーセントが支持するとしている。鉄道労働者のストに理解が少ないことについては、あまりに度重なる交通機関のストライキに国民が疲弊していること、7パーセントの賃上げ要求が「贅沢」なのではと思われている可能性が高いことなどが挙げられる。

しかし、鉄道海事運輸労働組合(RMT)の調査によると、鉄道会社はコロナ禍にあった2020年3月~22年9月の間、公費投入で3億1000ポンド(約500億円)の利益をあげたという。RMTのミック・リンチ書記長は、それだけの利益があれば、10.6パーセントの賃上げが可能だったにもかかわらず、列車運行会社協会(Rail Delivery Group)は労使交渉を拒んでおり、賃上げ案は4パーセントしか提示していない。それどころかコスト・カットのためにワンマン運行を導入するなど、労働条件も悪化させているのだと述べており、賃上げの数字だけでは分からない、さまざまな要因が絡んでいるのが現状だ。

国民のストライキ支持率(参考: ガーディアン紙 2023年1月11~13日)

看護師

看護師

救急隊員

救急隊員

小学校教員

小学校教員

鉄道労働者

鉄道労働者

支持
不支持
不明

③ ストで賃金はアップするのか

イングランド銀行(中央銀行)は、労働者が大幅な賃金アップを獲得すれば、雇う側は利用者や消費者に対して値上げをせざるを得なくなる可能性を示唆する。それがインフレ率を引き上げるため、労働者はさらに賃上げを求め、結果として賃金と物価の上昇スパイラルが生じるというのだ。

一方で、労働組合の中央組織である労働組合会議(TUC)は、労働者の平均給与は2008年よりも少ないと主張。労働者の収入がこれほど長期間増加しないのは、過去200年で初めてだという。ただ、ストライキによって10パーセント以上の賃金アップに成功した業種もある。2022年に起こしたストで昇給を獲得した主な事業は下記の通り。

  • 6月からストライキを行っていたイングランドとウェールズの法廷弁護士は、10月に15パーセントの昇給で妥結。
  • ロンドン北部のバス運転手2000人が、11パーセントの昇給を獲得。
  • 英東部ケントのバス運転手480人が、6日間にわたるストを決行し約14パーセントの昇給。
  • 7月に航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)のヒースロー空港スタッフが、スト入りを予告し、13パーセントの昇給を獲得。
  • 通信大手ブリティッシュ・テレコム(BT)で一部の従業員がストを決行。11月に16パーセントの昇給で妥結。

④ 最近実施された主なストライキは

  • 2022年12月には、国民医療制度(NHS)の看護師10万人が106年の歴史のなかで初となる全国規模のストを実施。長時間労働と過重労働という悪質な労働条件が続いており、国に対して19パーセントの賃上げを求めた。

    賃上げを求めてユニバーシティ・カレッジ・ロンドン・ホスピタルの前で抗議するNHSスタッフ賃上げを求めてユニバーシティ・カレッジ・ロンドン・ホスピタルの前で抗議するNHSスタッフ

  • 年末のクリスマス休暇中には、8日間に渡ってロンドンのヒースロー空港をはじめとする主要空港で、入国審査を行う職員がストを実施した。
  • 教員組合は2月と3月の7日間にわたってストライキを実施することを発表し、2月1日にはイングランドとウェールズで働く公立学校の教員が最初のストを実施。当日は国内五つの主要労働組合の呼びかけで、あらゆる業種の労働者50万人が一斉にストライキを実施した日でもある。これは2011年に200万人が保守連立内閣の年金削減政策に対する抗議ストライキを実施して以来、最大規模のストライキとなった。また、反ストライキ法案に反対する市民も交えた抗議デモも併せて開催された。
  • イングランド全土では、4月11日から4日間にわたり、ジュニア・ドクターのストが実施された。

⑤ 反ストライキ法案とは

リシ・スナク首相の率いる保守党政府は、交通機関、医療、消防、教育、国境警備などの公共部門のストライキを制限する「反ストライキ法案」(Anti Strike Bill)を議会に提出し、現在上院で審議が進行中だ。この法案は「最低サービス水準法案」(The Minimum Service Level)とも呼ばれる。労働・年金省は、ストライキ中に一般市民が危険にさらされないようにするため、最低限のサービス・レベルのセーフティー・ ネットを導入するのが狙いだと主張している。しかし、ストライキの権利を奪うものだとして労働組合だけではなく国民からも批判の声が上がっている。主な内容は下記の通り。

ほかの欧州の国とは異なり、英国では、「ストライキ権」のような確固たる権利が法律で明記されていない。その代わり「ストライキによって会社に損害が生じても、労働組合も組合員も損害賠償責任は負う必要はない」という法的保護を受けている。新法案ではこれらの保護がとり除かれるため、その結果、反ストライキ法案に従わない労働組合は、雇用主から損害賠償を請求されるようになり、従わない個々の組合員は解雇される可能性もある。現代の英国では、1980年代のサッチャー政権が制定した労働組合法、2016年の労働組合法(TUA)と過去に2度、労働組合の権利を削減する法律が制定されている。もしも今回の反ストライキ法案が成立した場合、労働者にとっては人権問題に関わる大変厳しい処置になるといえる。

    審議中の反ストライキ法案の主な内容
  • ストライキ中も、交通機関や医療機関、学校などの公共機関は最低限のサービス水準を確保しなければならない。水準に満たない場合、労働組合は損害賠償に対する法的保護を失う。
  • 雇用者は、ストライキ中に適切なサービス水準を満たすために必要な労働力を維持し、労働組合はストライキ中も適切な人数の労働者を確保する措置を講じなければならない。
  • 働くことを求められたにもかかわらずストライキを継続する組合員は、不当解雇に対する保護を失う。

労働組合の過去・現在・未来

ストライキを組織し実行するのが労働組合(Trade Union)の組合員。雇用条件の維持や改善を目的とする労働者の連帯組織で、福利厚生や労働条件、安全基準の改善、従業員の地位を管理する規則の策定、そして労働者の交渉力の保護と向上などに尽力する。現在、英国の全労働者(雇用者)に対する組合員の割合は、2020年に23.7パーセント、21年は23.1パーセントと低下しており、1995年以来史上最低の組合加入率を記録している。働き方が多様化するなか、労働組合は時代遅れなのだろうか。簡単にその歴史を振り返ってみよう。

英国で誕生した労働組合

労働組合の始まりは18世紀後半までさかのぼる。産業革命によって工業が発展したため、女性や子ども、農民、移民などが都市の労働市場に参加するようになり、労働者という新しい階級を生み出した。つまり、労働組合は産業革命に伴い生まれた「雇用」という労働の新形態とともに現れたといえる。中世にもギルドや友愛組織は存在したが、14世紀半ばまでにイングランド王により非合法化され、「労働条件を維持または改善するために連帯する」という考え方だけが何世紀にもわたって脈々と存続していた。

1811年、工場の機械化が進み熟練労働者が職を失い、一方で不熟練の労働者が酷使され長時間労働を強いられるなど、労働環境は悪化。耐えかねた労働者たちが、機械や工場建築物を破壊する「ラダイト運動」が起きる。政府はこのような行動に対して最高刑を死刑とする法律を制定したものの、1811~17年の長期にわたって打ち壊しは続き、これにより工場や機械破損の被害や、多数の死傷者や逮捕者が出る結果となった。そんななか、英北部マンチェスターで1818年に一般貿易組合(General Union of Trades)が設立。さまざまな職業の労働者を集めた最初の近代的な労働組織といわれており、労働組合が違法だった時代、組織の本来の目的を隠すためにフィランソロピー協会(Philanthropic Society)という慈善団体名を名乗った。

やがて社会改革家ロバート・オーウェン(Robert Owen)などによる社会主義の思想が社会に浸透し、労働者を法的に保護して、労働組合を公認する動きが始まった。1820年代の自由主義的改革のなか、1824年に労働者団結法によって労働組合の結成が公認された。

全く新しいタイプの労働組合

2000年代に入り、パートや契約社員に加えギグ・ワーカー、フリーランスなど、働き方や働く人のニーズも多様化。非正規労働者が急増するなか、労働組合は既得の権利を固持し、雇用と賃金を守るだけの時代遅れの存在だとマスコミ批判を受けることも多くなった。現に組合加入率も年々下がっている。

しかし、コロナ禍やウクライナ紛争の影響を受けた昨今のインフレや生活費の上昇により、労働組合の存在意義が再認識され、これまでとは異なる、時代に合わせた労働組合も生まれ始めている。これは米国をはじめ多くの先進国で起きている現象で、英国ではスタートアップ企業が立ち上げたオンラインの労働組合「オーガナイズ」(Organise)が勢力を伸ばしている。2019年末に8万人足らずだった組合員はコロナ禍で130万人に増加。人数では英最大の組合Unisonを超える。従来の賃金や雇用問題に限らず、さまざまなハラスメント、LGBTQ+など個別化する職場の問題にも対応する。働く人々の権利を守るため、これからも新しいタイプの組合が生まれていきそうだ。

デリバルーのドライバーはフリーランス・ワーカー。こうした非正規労働者のための新しい組合が生まれているデリバルーのドライバーはフリーランス・ワーカー。こうした非正規労働者のための新しい組合が生まれている

英国の主な労働組合

● RMT (The National Union of Rail, Maritime and Transport Workers)

公共交通機関の、特に保守作業を担う労働者が多く所属する。組合員数は約8万人。規模は小さいが、鉄道ストライキを実施するなどして大きな影響力を持つ組合の一つ。
www.rmt.org.uk

● Unison

英国で最大規模で知られる労働組合。特に地方自治体や教育、医療などの公的機関に勤める職員たちが多く参加している。組合員数は約123万人。
www.unison.org.uk

● NEU (The National Education Union)

約51万人の組合員数を誇る、欧州で最大の教職員組合。学校教師、補助教員から高等教育講師まで、あらゆる教育関係者が参加。2017年にNational Union of Teachers(NUT)とAssociation of Teachers and Lecturersが合併して設立された。
https://neu.org.uk

● PCS (Public and Commercial Services Union)

公務員を支持母体に持つ労働組合としては、英国最大。歳入関税庁、労働・年金省など分野ごとにさらに小さなグループが形成されている。組合員数は約20万人。
www.pcs.org.uk

● Unite

単体としてはUnisonに次ぐ規模の労働組合。建設、製造、交通、物流など対象業種は多岐にわたり、所属する組合員数は120万人以上。
www.unitetheunion.org

● TUC (Trades Union Congress)

総計550万人の労働者を擁する48団体が名を連ねる、英国における労働組合の全国中央組織。UniteとUnisonの組合員がその半数を占める。
www.cwu.org

● CWU (Communication Workers Union)

大手電気通信会社BTなどのテレコミュニケーション関連企業に加えて、ロイヤル・メールで働く労働者が多く参加している組合。組合員数は約20万人。
www.tuc.org.uk

● NASUWT (National Association of Schoolmasters/Union of Women Teachers)

もともとはNUT内のグループの一つとして誕生した校務総括者の労組、National Association of Schoolmastersが方針の相違を理由に1922年に独立。1976年に女性教員の労組Union of Women Teachersと合併してできた労働組合。組合員数は約30万人。
www.nasuwt.org.uk

● GMB (General, Municipal, Boilermakers' and Allied Trade Union)

さまざまな分野における労働者が参加する労働組合。とりわけNHSや救急隊員など公的機関で働く肉体労働者たちが多く参加する。組合員数は60万人以上。
www.gmb.org.uk

 

赤いヒナゲシの花が象徴「リメンバランス・サンデー」とは?

英国では、毎年10月頃から、道行く人の上着やテレビ番組に登場するアナウンサーの背広の襟部分に、赤い花の飾りを見掛けるようになる。一般的には「ポピー」と呼ばれるこの花と、毎年11月に開催される、戦死者を追悼する日「リメンバランス・サンデー」の関わりに注目した。
(小林恭子)

赤いポピー

ヒナゲシと戦死者追悼の関係 Q&A

Q 欧州で、赤いヒナゲシ(scarlet corn poppy)が戦死者追悼の象徴になった背景とは?

A ヒナゲシは欧州原産のケシ科の1年草で、過酷な自然環境の中でも成長して花を咲かせる。19世紀にナポレオン戦争で荒廃した欧州各国の戦場では、戦死者の遺体の周囲に赤いヒナゲシが生え、荒れた土地がヒナゲシの野原に変貌したと言われている。
1914年に第一次大戦が勃発し、フランス北部やフランダース地方(旧フランドル伯領を中心とする、オランダ南部、ベルギー西部、フランス北部にかけての地域)が戦場となった。戦闘が終わると、戦場を埋めるように育ってきたのが赤いヒナゲシだったという。こうして欧州では、戦争とヒナゲシの花との関連が意識されるようになった。

Q 戦死者追悼儀式の象徴となったきっかけは?

A 1915年、カナダ人の医師で詩人でもあったジョン・マックレーが、同国人兵士の死を機に書いた「イン・フランダース・フィールズ」が、英雑誌「パンチ」に掲載された。戦場に咲くヒナゲシの花の描写を冒頭に入れた詩は、欧州諸国で人気を得て、その後、ヒナゲシは戦闘で命を落とした兵士たちが払った犠牲を象徴するものとなった。また現在では、平和の象徴として、白いヒナゲシの花をイメージした飾りを付ける人もいる。

Q 「 ヒナゲシ募金」(「ポピー・アピール」)とは?

A 英国在郷軍人会が1921年に始めた募金活動の名称で、収益金は英軍関係者への支援に使われている。2010年の募金総額は3600万ポンド(約43億円)。

(資料:BBC、英国在郷軍人会のウェブサイト)

リメンバランス・サンデー2009年のリメンバランス・サンデーにおいて、ホワイト・ホールの戦没者記念碑に献花するヘンリー王子(写真左)とエリザベス女王(同右)

戦死者追悼式の予定表

11月11日
リメンバランス・デー

午前11時、英国内(及び英連邦諸国などを含む世界の複数国)で、第一次大戦の戦死者を追悼するための2分間の黙とうが行われる。

11月の第2週の日曜日あるいは11日に近い日曜日
リメンバランス・サンデー

ロンドン中央部:午前中、ホワイト・ホールにある、戦死者の慰霊碑前で追悼儀式が行われる。英王室のメンバー、首相、各政党党首、外相、英連邦や軍の代表者などが出席。11時に黙とう。その後、エリザベス女王から始まって、王室メンバー、首相などが花輪を慰霊碑前に置く。この模様はテレビで生中継される。

英国内各地:各地の慰霊碑の周辺で同様の儀式が行われる。地元の教会前に有志が集合し、慰霊碑まで追悼行進をした後、黙とうと花輪の配置などを行う。誰でも参加できる。

「リメンバランス・サンデー」の起こり

英国では今年、「記念日」または「追悼する日」という意味が込められた「リメンバランス・サンデー」を11月13日に迎える。追悼の対象は、当初は第一次大戦(「関連キーワード」参照」)の戦死者たちであった。

1918年11月11日の午前11時、第一次大戦で敗戦国となったドイツが、勝者である連合国軍側との休戦協定を結んだ。その翌年から毎年、11月の第2週の日曜日または11日に近い日曜日のいずれかに、追悼式典が開催されてきた。同大戦は、近代兵器が使われた初めての世界規模の戦争で、大戦中の戦死者数は数百万に上った。この戦争の犠牲となった戦死者たちを忘れず、またこの大戦が「最後の世界大戦」となることを願って、当時の英国の国王であったジョージ5世が、2分間の黙とうを含む式典を開催する「リメンバランス・サンデー」の創設を主導。以後、第一次大戦だけではなく、第ニ次大戦や最近のアフガニスタンやイラクにおける戦死者など、英国が関与した様々な戦争で命を落とした兵士を追悼する日となっている。

ヒナゲシの花をつけることの是非

英国では秋が深まるころになると、紙でできた赤いヒナゲシの花のブローチを、洋服の襟部分などにピンで留めている人の姿を多く見かけるようになる。ブローチの販売は英国在郷軍人会という団体による募金活動の一つであり、販売を通じて得た収益金が、英軍関係者への支援に使われる仕組みになっているのだ。戦死者への追悼の意を表しながら、英兵士にいくばくかの金銭的支援を提供できるとあって、毎年この時期、英国では多くの人がブローチを買い求める。

一方で、ブローチを着用することに反発を感じる人は少なくない。「ほかの人と同じような行動を取りたくない」という英国人気質から反発を示す人がいれば、「愛国心の表明を強制されたくない」と言う人もいる。また戦死者に対して追悼の意を表明するという行為について真剣に考える人々の中には、テレビのキャスターなどが判を押したようにヒナゲシのブローチをつけて画面に登場する様子をかえって不快に思ったり、さらには侮辱とさえ受け止める人もいるようだ。実際に、戦死した父親を持つある高齢者は「本当に、戦死者に思いをはせてブローチを付けているのだろうか」「ブローチをつけることが社会的に正しいとされているから付けているだけではないのか」との見解を、あるメディアの取材を通じて述べていた。

戦争の現実を振り返る機会にも

「リメンバランス・サンデー」は、英国に住む人にとっては過去を振り返る機会であるとともに、現在でも世界各地の紛争地に自国の兵士を送り続ける、戦争の「現役国」であるという現実を改めて受け止めながら、これ以上の死者を出さないようにと改めて願うときでもある。日本とはまた違った戦争についての歴史を持つ英国という外国に住む私たち在英日本人にとっては、この式典を体験することで、様々なことを学ぶことができる機会になりそうだ。

World War Ⅰ

第一次大戦(1914〜1918年)。オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナンド大公夫妻が射殺された「サラエボ事件」がきっかけで勃発した。ドイツ、オーストリア、オスマン帝国、ブルガリアの同盟国側と英国、フランス、ロシアの連合国側が欧州を主戦場として戦闘開始。日本、イタリア、米国も連合国側に参戦した。スイス国境から英海峡まで延びる塹壕戦のために、数百万規模の若者が動員された。一説には戦闘員の死者は900万人、非戦闘員が1000万人、負傷者は2200万人と推定されている。敗退した側のドイツと連合軍との間の休戦協定が、1918年11月11日に調印された。
 

ラファエル前派の生みの親 - ダンテ・ガブリエル・ロセッティ

ラファエル前派の生みの親ダンテ・ガブリエル・ロセッティ

ラファエル前派の1人、ダンテ・ガブリエル・ロセッティ(1828年5月12日~82年4月10日)は、日本でも人気が高い19世紀英国の画家・詩人。4月6日からテート・ブリテンで始まる大回顧展「ロセッティズ」(The Rossettis)では、同じく芸術家だった弟妹、モデルで絵の才能もあった妻シダルなど、ロセッティの身近な人々の作品も同時に展示される。本誌では、回顧展をより楽しく観るために、ロセッティを取り巻く人々や、カリスマ性と人間臭さを併せ持つロセッティの素顔を紹介する。(文:英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.tate.org.ukwww.rossettiarchive.orgwww.poetryfoundation.org ほか

1863年のダンテ・ガブリエル・ロセッティ。撮影はルイス・キャロルの名で知られるC・L・ドジソン1863年のダンテ・ガブリエル・ロセッティ。撮影はルイス・キャロルの名で知られるC・L・ドジソン

ダンテ・ガブリエル・ロセッティDante Gabriel Rossetti(1828–1882)

若き日のロセッティの「自画像」(1847年)若き日のロセッティの「自画像」(1847年)

1828年5月12日、ロンドン中心部のシャーロット・ストリートに生まれる。父のガブリエーレはイタリアから英国に政治亡命した著名なダンテ研究家。母のフランセスは同じく亡命イタリア人の父と英国人の母をもつ教師だった。両親の知や芸術への興味と才能を受け継ぎ、4人の子どもたちは全員天分に恵まれる。ロセッティは第2子であり、子どものころから情熱的で、人を引き付ける天性のカリスマ性があったという。

14歳で父が教鞭をとるキングス・カレッジ・スクールに通ったのち、詩人になるか画家になるか迷いながらも1845年にロイヤル・アカデミー・オブ・アーツに入学。だがここで学ぶ決まりきった古代彫刻のデッサンなどにうんざりし、ラファエル前派兄弟団を結成。その中心的人物となる。当初はその官能性などから悪評を被ったロセッティとラファエル前派作品は、欧州の象徴主義画家たちに影響を与え、耽美主義の先駆けとなった。

ラファエル前派とは

19世紀英国の美術教育は、イタリアの盛期ルネサンスを規範とし、ラファエロのような古典主義の作品が完璧な美として礼賛されていた。しかし、そうした優雅で均衡のとれた美に飽き足らず、ラファエロが登場するルネサンス以前の、中世の芸術に理想を見出した英国の画家たちが、1848年9月に結成したのがラファエル前派兄弟団(Pre-Raphaelite Brotherhood)。

当時ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの学生だったロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイの3人が中心になった。後にエドワード・バーン=ジョーンズやウィリアム・モリスらが加わるが、これをラファエル前派第二世代と呼ぶ。

かつてミレイのアトリエがあった大英博物館近くの建物。現在は「ラファエル前派が結成された場所」と記された銘板が掲げられているかつてミレイのアトリエがあった大英博物館近くの建物。現在は「ラファエル前派が結成された場所」と記された銘板が掲げられている

ロセッティを取り巻く人々

クリスティーナ・ジョージナ・ロセッティChristina Georgina Rossetti(1830-1894)

父親や兄の影響で幼いころから文学や美術に親しんでいたクリスティーナは、12歳のころから詩作をはじめ、ラファエロ前派の機関誌「 ザ・ジャーム」(The Germ=萌芽)に作品を発表。「ゴブリン・マーケット」や「シング・ソング」など、今も読み継がれる名作を世に出した。

クリスティーナの著作「ゴブリン・マーケット」の第2版クリスティーナの著作「ゴブリン・マーケット」の第2版

また、兄の絵画「聖母マリアの少女時代」や「受胎告知」のマリアなど、多くの絵画作品のモデルともなった。敬虔なキリスト教徒だったクリスティーナだが、思想的には同時代の偉大な詩人エリザベス・バレット・ブラウニング同様、権力や性差別に対する鋭い感覚を持ち、奴隷制や売春による性的搾取、動物実験に反対した。

妹のクリスティーナをマリアのモデルにして描かれた「受胎告知」(1849~50年) 妹のクリスティーナをマリアのモデルにして描かれた「受胎告知」(1849~50年)

マリア・フランチェスカ・ロセッティMaria Francesca Rossetti(1827–1876)

ロセッティ家の長女マリアは、詩人ダンテの研究書「ダンテの影―彼自身、彼の世界、そして彼の巡礼の研究にむけての試論」(A Shadow of Dante: Being an Essay towards Studying Himself, His world, and His Pilgrimage)を1871年に発表。当時の英米で好評を得た。

また、父親の健康状態が悪化し家族が経済的困窮にひんしたときは家庭教師として働き一家を支え、妹のクリスティーナは自作「ゴブリン・マーケット」をマリアに捧げた。46歳のとき、マリアは聖公会の女子修道会であるオール・セインツ教会に入会し修道女として一生を終えた。

ウィリアム・マイケル・ロセッティWilliam Michael Rossetti(1829–1919)

美術評論家、文芸編集者、文人。ラファエル前派の7人の創設メンバーの1人であり、1850年に4号発行された同グループの機関誌「ザ・ジャーム」を編集。同誌の詩のレビューなども担当した。また、1848年9月に同運動が始動したとき、ラファエル前派の活動を記録したのはウィリアムだった。

1863年にルイス・キャロルことC・L・ドジソンが撮影したロセッティ一家。母親を中心に、右から姉のマリア、弟のウィリアム、ロセッティ、階段に座る妹のクリスティーナ1863年にルイス・キャロルことC・L・ドジソンが撮影したロセッティ一家。母親を中心に、右から姉のマリア、弟のウィリアム、ロセッティ、階段に座る妹のクリスティーナ

エリザベス・エレノア・シダルElizabeth Eleanor Siddal(1829–1862)

ラファエル前派の画家によって広く描かれた美術モデルで、ジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」のモデルとして特に知られる。労働者階級に生まれ、婦人帽子屋で働いているところを、ラファエル前派の1人だった画家のウォルター・デヴァレルに発見され、モデルとして雇われたのがロセッティと出会うきっかけになったというのが通説。

だが一方で、シダルが暇なときに描いたドローイングを帽子屋に来ていたデヴァレルの父親が大変気に入り、息子とその友達に絵を習うよう勧めたのが始まりで、ロセッティはシダルの絵の先生だったという説もあり、最初の出会いには謎が多い。

ロセッティの代表作「ベアタ・ベアトリクス」(1864年)。シダルの死を悼み描かれた ロセッティの代表作「ベアタ・ベアトリクス」(1864年)。シダルの死を悼み描かれた

また、シダルの容貌は健康的な古代イタリアの美とはかけ離れていたものの、赤毛で長身のすらりとした姿と青白く繊細な顔付きは、ラファエル前派の描く女性美の典型の一つとなった。ロセッティは、自分を詩人のダンテと同一視し、恋人となったシダルをダンテが理想の女性として描いたベアトリーチェと重ねた。

ロセッティはシダルを理想化し、霊的で精神的な愛の対象とみなし作品を制作。一方で、ほかの女性に現世的で現実的な愛を求め、シダルと婚約、結婚をしてもそれは変わらなかった。それを苦にしたシダルは次第に健康を害し、当時家庭薬として使われていた麻薬の一種アヘンチンキを多用。妊娠中だった1862年2月、シダルはアヘンチンキの過剰摂取が原因で32歳で短い生涯を閉じた。

ミューズジェーン・モリスJane Morris(1839-1914)

貧しい馬丁の娘だったジェーンは、黒髪と意志のある強いまなざしを持つエキゾチックな美貌で、ラファエル前派の画家たちを魅了し、メンバーのミューズ的存在となった。オックスフォードで観劇中、芝居を観に来ていたロセッティとエドワード・バーン=ジョーンズに声を掛けられたのがモデルになるきっかけだったといわれる。

後に2人を通じてアーツ・アンド・クラフツ運動の推進者となるウィリアム・モリスに出会ったジェーンは、経済的困難から脱却するために資産家のモリスと結婚。しかしロセッティとも愛し合い、ロセッティ、ジェーン、モリスの奇妙な三角関係はロセッティが死去するまで続いた。

ジェーンをモデルにした「プロセルピナ」(1874年)冥界に下りたギリシア神話の春の女神 ジェーンをモデルにした「プロセルピナ」(1874年)冥界に下りたギリシア神話の春の女神

共に激しい性格で似た者同士だったロセッティとジェーンは、深い絆で結ばれていた。妻のシダルをモデルに聖なる女性を描いたロセッティは、ジェーンをモデルに憂いを秘め、もの思いに沈むファム・ファタール(運命の女性)を次々に描き出した。

また、モリスと暮らし始めて以来ジェーンは、個人教授を受けすぐに高い教養と洗練された話し方を身に付けた。同時代の人々はジェーンのことを「女王のよう」と形容するほどだったという。ジェーンは、アイルランドの戯曲家バーナード・ショーの「ピグマリオン」(Pygmalion)の登場人物、ヒギンズ夫人のモデルともいわれている。同作品は「マイ・フェア・レディ」の名で映画化もされた。

愛人ファニー・コーンフォースFanny Cornforth(1835–1909)

ロセッティは妻シダルの死後、すぐに愛人兼モデル兼家政婦のファニー・コーンフォースを自宅に住まわせた。ファニーは鍛冶屋の娘として英南東部サセックスに生まれ、家政婦として生計を立てていた。ロセッティの弟ウィリアムは若いファニーの美しさを称賛したものの、教育、知性の魅力が無いと語り、多くの人々がロセッティに関係を終わらせるよう圧力をかけたという。だが、ロセッティはファニーをモデルに60点余りの作品を描いた。いずれも肉感的な魅力を強調した作品で、シダルを聖、ジェーンを運命とするなら、ファニーは女性の性の部分を受け持った。

「キスされた唇」(1859年)ファニーがモデル。イタリア作家ボッカチオの「デカメロン」の一場面 「キスされた唇」(1859年)ファニーがモデル。イタリア作家ボッカチオの「デカメロン」の一場面

だが、妻の死に対する罪悪感やジェーンへの思慕などから酒と麻薬に溺れる生活が続き、ロセッティは不摂生から体重が大幅に増加。ファニーはロセッティの体型を見て「サイ」と茶化していたという。45歳で自殺未遂事件を起こすなど心身ともに病んだロセッティは、1877年までファニーと一緒に暮らした後、家族の世話を受けながら療養生活に入る。不眠症のため夜中にロウソクの火で絵を描くなどするが、82年、53歳の春に腎臓疾患でこの世を去った。

一方、ファニーはロセッティが生前の79年に税務士の男性と結婚。ロンドンのジャーミン・ストリートでパブの営業をはじめたが、ロセッティの死後、夫とロセッティ・ギャラリーをオープン。自分の所有するロセッティ作品を販売したという。

絵画と同じくらい評価されたロセッティの詩

絵画制作と同等か、ときにはそれ以上にロセッティが熱中したのが詩作だった。若いころから古代イタリア詩の翻訳を行い、ダンテを愛し、英詩ではアルフレッド・テニスンやウィリアム・ブレイク、ジョン・キーツなどのロマン派の作品に傾倒した。

下記に紹介するのは情熱的に恋愛を賛美した1881年出版の詩集、「命の家」(House of Life)からの1篇。ジェーン・モリスとの体の関係を詠ったソネットといわれている。道徳観念の厳しかったヴィクトリア時代、この詩集は当時の批評家からその官能性を攻撃されたという。

Youth's Spring-Tribute

On this sweet bank your head thrice sweet and dear
I lay, and spread your hair on either side,
And see the newborn woodflowers bashful-eyed
Look through the golden tresses here and there.
On these debateable borders of the year
Spring's foot half falters; scarce she yet may know
The leafless blackthorn-blossom from the snow; And through her bowers the wind's way still is clear.

But April's sun strikes down the glades to-day; So shut your eyes upturned, and feel my kiss Creep, as the Spring now thrills through every spray,
Up your warm throat to your warm lips: for this
Is even the hour of Love's sworn suitservice,
With whom cold hearts are counted castaway.

和訳

春の みつぎ

草うるはしき岸の うへ に、いと うる はしき君が おも
われは よこた へ、その髪を二つにわけてひろぐれば、
うら若草のはつ花も、はな じろ みてや、 黄金 こがね なす
みぐしの ひま のこゝかしこ、 面映 おもはゆ げにも のぞ くらむ。
去年 こぞ とやいはむ今年とや年の さかひ もみえわかぬ
けふのこの日や「春」の足、 なかば たゆたひ、 小李 こすもも
葉もなき花の 白妙 しろたへ は雪間がくれに まど はしく、
「春」住む庭の 四阿屋 あづまや に風の 通路 かよひぢ ひらけたり。

されど 卯月 うづき の日の光、けふぞ谷間に照りわたる。
仰ぎて まなこ 閉ぢ給へ、いざくちづけむ君が おも
水枝 みづえ 小枝 こえだ にみちわたる
「春」をまなびて、わが恋よ、
温かき のど 、熱き口、ふれさせたまへ、けふこそは、
ちぎり もかたきみやづかへ、恋の日なれや。冷かに
つめたき人は 永久 とこしへ のやらはれ人と おと し憎まむ。

(訳: 上田敏 訳詩集「海潮音」より 青空文庫)

妻の墓を暴いたロセッティ

妻のシダルがロセッティの不義理に苦しみながら死んだとき、心から後悔したロセッティは、自分の未発表の詩稿の束をシダルの亡骸と一緒にロンドン北部のハイゲート墓地に埋葬した。その詩はロセッティが亡き妻への思いを込めたものだった。しかしその7年後、詩人としてのロセッティのエゴが頭をもたげた。棺に納めた詩稿が素晴らしい出来だったという考えを振り払うことができないロセッティは、美術商の友人チャールズ・オーガスタス・ハウエルに依頼し、シダルの墓を開けて詩稿を回収してもらう。

ロセッティは手元に戻った詩稿に、新たに数編を加えて改めて出版。皮肉にも、この詩集「Poems」はロセッティの詩人としての人生で最高の評価を得た。しかし妻の墓を暴いたという事実は、その後のロセッティを終始苦しめ、破滅的な晩年へと追いやることになった。また、ロセッティは罪悪感から、自分が死んだら妻と同じ墓には埋葬しないよう遺言を残した。そのため、ロセッティの墓は、ロセッティ一家とシダルの眠る墓地ではなく、療養先だった英南東部の海辺の町、バーチントン・オン・シーのオール・セインツ教会にある。

ハイゲート墓地に眠るロセッティ一家(写真中央左、1番大きいもの)。ロセッティの両親、弟妹と共にシダルも埋葬されているハイゲート墓地に眠るロセッティ一家(写真中央左、1番大きいもの)。ロセッティの両親、弟妹と共にシダルも埋葬されている

EXHIBITION

The Rossettis

芸術、愛、人生に対するアプローチが「革命的」と称される、ダンテ・ガブリエル・ロセッティを、詩、絵画、写真、デザインなどジャンルを超えた多角的な方面から検証する。

4月6日(木)~9月24日(日)
10:00-18:00
£22
Tate Britain
Millbank, London SW1P 4RG
Tel: 020 7887 8888
Pimlico駅
www.tate.org.uk

 

英国で知っておきたいサポート 女性の健康を社会的に考える

英国で知っておきたいサポート女性の健康を社会的に考える

どの国に住んでいようとも、生理や妊娠など女性特有の体の健康にはいつも気を配っておきたいもの。しかし、悩みがあってもいまだに相談することを恥ずかしいと思う人も多く、どうしてもタブー視されがちなトピックだ。ここ英国では、まだまだ課題はあるものの、女性の健康に関する社会的なサポートやムーブメントが著しく発達し、成人女性を中心に比較的オープンに語れる状況となっている。今回は女性以外のジェンダーの方々にも読んでいただけるような、英国における女性の健康支援について調べてみた。今一度自分や家族の健康について考えるきっかけになったら幸いだ。 (文:英国ニュースダイジェスト編集部)
※ 本特集ではトランスジェンダーを含む、生理がある人をまとめて女性と呼びます

参考: www.ibanet.orgwww.theguardian.comwww.bbc.co.ukwww.gov.ukwww.gov.scotwww.gov.waleswww.niassembly.gov.ukwww.nhs.ukwww.actionaid.org.ukwww.personalcareinsights.comwww.bodyform.co.uk ほか

社会的スティグマ(Social stigma)のない社会へ

社会的スティグマとは、一般的と思えること、人と異なることから差別や偏見の対象になることで、精神疾患やHIV、LGBT+、宗教など、個人がもつ特徴によって社会的に弱い立場に追いやられ、不当な扱いや負のイメージを持たれることを指す。残念ながら現代社会はさまざまなスティグマが存在するが、本特集で主に取り上げる生理に対しても「Period stigma」(生理のスティグマ)がある。

貧困状態にある女性や子どもを助ける国際慈善団体ActionAid UKの調査によると、英国女性の26パーセントが「生理を恥ずかしい」と思う何らかの状況に直面したことがあり、10人に1人が現・元パートナーから生理について否定的なコメントを受けたことがあると回答している。生理がある人は、生理用品を入手できる権利、清潔な場所での使用、そしてこれらの問題について恥ずかしがらずに話し合う権利があるものの、生理があるだけで嫌な思いをした経験のある女性が少なからずいるのだ。こういったスティグマを取り除く意識改革は、男性パートナー、また女の子を持つ親にとっても大切なこと。「生理は恥ずかしいものではない」という意識を多くの人が持つことは、目の前の大切な人、そして社会全体にとっても良い影響を与える。

また、毎年5月28日は「月経衛生デー」となっており、2030年までに月経を理由に不利益を被ることのない世界を構築するという目標に向けて、生理に関する偏見をなくしつつ、衛生管理の重要性を考える日だ。生理がある人もない人も、改めて生理について考える1日にしてみてはいかがだろうか。

生理用品は「生活必需品」生理の貧困を救うサポート

初潮から閉経まで、平均で35~40年間といわれている生理。まずは、生理用品に対する政治的なサポートをまとめた。

生理用品の購入が当たり前と思ってはいけない「生理の貧困」がもたらす深刻な影響

近年日本でも聞かれるようになった「Period poverty」(生理の貧困)は、経済的な制約のために生理用品を入手することが困難な状況で生活する状態が続くことで、世界中の女性や少女にとって大きな問題となっている。

子どもの支援団体Plan International UKが14〜21歳の女性1000人を対象に行った調査によると、10人に1人が生理用品を購入する経済的余裕がなく、7人に1人は生理用品を買うのに苦労している。また、市場調査会社ワンポールによると、生理が始まると学校を休まねばならない子どもが英国に13万7700人もいる。学校での欠席日数が増えるに伴い授業にだんだんついていけなくなることで、学力形成に影響が及び、少女たちの将来の可能性をも狭める原因となっている。また、生理用品が購入できない少女たちは、ナプキンやタンポンの代わりにトイレット・ペーパーを代用するなど、適切な方法で対処できておらず、衛生面、また精神面にも大きな懸念がある。

生理の貧困のもう一つの大きな問題は、生理を恥ずかしいと思う少女が大勢いること。同支援団体の別の調査では、1000人中半数以上が生理を恥ずかしいことだと認識し、助けを求めることにためらいがあることが分かった。

廃止にはなったものの新たな課題も時代に翻弄されるタンポン税

政治が絡んだタンポン税の廃止

生理の貧困を無くす政府のサポートの一つとして、2021年1月1日より、生理用品に対する付加価値税(Value Added Tax=VAT)=Tampon tax(タンポン税、タンポン以外の生理用品も含む)が廃止された。廃止の背景には、英国のEU離脱(ブレグジット)が深く絡んでいる。

同税の廃止はブレグジット以前から政府の課題となっていたが、当時EU加盟国だった英国は、タンポン税を5パーセント未満に引き下げてはならないというEU法に縛られていたため、廃止の自由はなかった。ブレグジット後、移行期間を経てようやく実現したものの、20年12月に行われたブレジットの討論会で、与党・保守党は嘆願書に署名した32万人もの市民や野党・労働党員にはほとんど触れず、これを「廃止したことでついにEUから抜けた」と表現。当時廃止に向けたキャンペーン「Stop Taxing Periods」の中心人物だったローラ・コリントン氏はこれを聞いて、同税廃止が女性のためでなくブレグジットを正当化する理由に利用されたのではないか、と「ガーディアン」紙のインタビューで苛立ちをあらわにした。

ちなみに現在のEU法では22年4月より、同加盟国は生理用品へのVATを免除することが可能になった。クロアチアでは税率が25パーセントから13パーセントに、イタリアでは10パーセントから5パーセントに、と減税の動きは出ているが、EU加盟以前からタンポン税を課していなかったアイルランドを除き、EU26カ国のいずれも同税を完全に撤廃するには至っていない。疑問符の多い実情があるものの、英国は欧州地域で早期にタンポン税を廃止した国の一つとなった。

欧州圏国別タンポン税(2023年2月現在)

※英国ニュースダイジェスト調べ

実際、消費者は恩恵を享受できているのか?

5パーセントの課税が廃止されたことで、生理用品が必要な人に経済的な恩恵がすぐにもたらされたのかというと、どうやらそうでもないらしい。「ガーディアン」紙によると、非営利の顧問会社タックス・ポリシー・アソシエーツの調査で、減税は女性ではなく小売業者にほぼ還元されており、消費者には1.5パーセントほどの値引きのみとなっている現状が明らかになった。減税によって女性たちは生涯で40ポンドも節約できるはずだが、商品の価格を決めるのは店舗の裁量。また、生理用ショーツは引き続き20パーセントのVATが課せられる。今回の法律改正の大きな推進力となったキャンペーン「Stop Taxing Periods」のコリントン氏は、この現状を目の当たりにし、政府へ提出する新たな請願書の作成を検討しているという。ただし、パンデミック後の急激なインフレによって、比較に必要な生理用品の正確な価格が把握できないことも、還元率の算出に影響を及ぼしているようだ。

しかし、2017年からすでに自社ブランドの生理用品の価格を引き下げていたスーパーマーケットのTescoや、「(タンポン税廃止以降)消費者に還元している」と声明を出した薬局チェーンのBootsのように、一部の企業では生理の貧困をなくすための変革がすでに始まっている。

消費者には利点のあるタンポン税の廃止だが、元々同税は主にDVや女性の社会進出を助けるための支援活動に充てられていたもの。廃止によって、女性をサポートしていた慈善団体は金銭面のサポートが大幅に減り、より厳しい状況に置かれたことを意味する。タンポン税の廃止はやはり手放しで喜べない現状がある。

実際、消費者は恩恵を享受できているのか?

世界に先駆けて行われている英国各地域の取り組み

タンポン税廃止前から、英国では地域別にさまざまな政策が取られている。まさに現在進行形のトピックだが、2023年2月時点では以下のような動きがある。

スコットランド

2018年に学校や大学で無料の製品を利用できるようになったスコットランド。同政府は21年8月15日からはさらに地位自治体に対しても、生理のある全ての人がタンポンやナプキン、月経カップなどの生理用品を無料かつ無制限に得られるようにするThe Period Products (FreeProvision) (Scotland) Act 2021を発令。スコットランドは生理用品を無償で提供する世界初の地域になった。これにより、ノンバイナリーやトランスジェンダーに関係なく、スコットランドにいる生理がある人は、オンラインやアプリ「PickUpMyPeriod」を使って図書館やコミュニティ・センター、美術館や博物館、慈善団体ブリティッシュ・クロスなど、場所を検索して生理用品を取りに行くことが可能だ。また、同アプリはナプキンやタンポン、月経カップの取り扱いの有無から、製品がプラスチック・フリーに対応しているかどうかまで、使用者が気にするポイントを詳しく表示してくれるなど、ユーザーの視点にたった設計となっている。

アプリ「PickUpMyPeriod」はスコットランド限定で稼働。生理にまつわる知識などの教育的サポートも担っているアプリ「PickUpMyPeriod」はスコットランド限定で稼働。生理にまつわる知識などの教育的サポートも担っている

また、政府は人口の少ない過疎地域にも法令が行き届くよう徹底している。例えばオークニー諸島では、同カウンシルが運営する全ての公衆トイレやフード・バンクなどへフェリーで生理用品を送付。また、エディンバラなどの都市部のように気軽に公共施設にアクセスできない農村地帯では、住民に生理用品を直接届けるオンライン・サービスを運用。住む場所によって恩恵が受けられないということがないよう、テクノロジーを駆使してサービスのさらなる充実へ向けて日々改善が進められている。

ロック・ロモンド&ザ・トロサックス国立公園内の女子トイレに設置された無料の生理用品ロック・ロモンド&ザ・トロサックス国立公園内の女子トイレに設置された無料の生理用品

また、オークニー諸島や一部のカウンシルでは、トランスジェンダーへの理解が薄いと想定される男性優位の農村部にある男性トイレにも生理用品を設置。生理用品を得るだけで受ける苦痛や周囲からの目による余計なストレスから解放されるよう、「a dignified approach」(威厳あるアプローチ)で取り組んでいる。

イングランド、ウェールズ、北アイルランド

学校や大学で生理用品を無料で入手できる。また、セクシャル・ヘルス・クリニックや地域の避妊クリニックでは、生理用品配布のほかに、住んでいる地域で無償提供を行なっている場所や、団体についての情報を共有してくれる。多くのフード・バンクからも可能で、TheTrussell TrustIndependent FoodAid Networkなどのサイトから、最寄りの配布スポットを調べられる。

地域別の取り組みでは、2019年よりNHSイングランドがNHS病院に入院する全ての女性と少女に対し、必要に応じて適切な生理用品を無料で提供。予期せず緊急入院となった患者、メンタル・ヘルスの問題で長期入院している患者にとっては、生理の心配をせず治療に専念し、安心して病院生活を送れるようにするための心強い味方となっている。また、サリー州のカウンシルで昨年から公衆トイレに生理用品が置かれるなど、カウンシルごとの積極的な動きもある。ウェールズでは、教育機関のほかに多くの図書館やレジャー・センターで入手可能。また、23年2月15日に生理の尊厳を高めるための政府の新しい計画「PeriodProud Wales Action Plan」が発表された。北アイルランドでは22年5月12日に王室の同意を得た「Period Products (Free Provision) Act(Northern Ireland) 2022」の施行へ向けて、現在部門ごとの規定について審議中だ。

月経カップの研究が進む英国

「Menstrual cup」と呼ばれている月経カップは、シリコン製のカップを膣に挿入して経血を溜めて使うタンポンに代わる生理用品で、欧米を中心に近年市民権を得てきた。煮沸消毒をすることで繰り返し使えるため、長い目で見れば経済的にも環境的にも良いとされており、さらに最大12時間膣内に入れっぱなしにできるところも人気の理由のよう。

しかし、経血の許容に上限があることから、経血量が多い人にはあまり向かないというデメリットも。その弱点に目を向けたのが英南部ブリストルを拠点とするEmm社だ。男性社員も協力して現在開発中のEmmカップには、月経の流れや量、速度、規則性を記録するセンサーが搭載されており、スマートフォンのアプリにデータを飛ばすことで、突然経血の量が増えた原因やサイクルの変化を測定。生理サイクルを数値で科学的に見ることができる。また、経血が溜まりカップの経血を捨てるタイミングを、アプリを通じてユーザーに通知することもできるそう。商品化は23年中を予定している。

www.emm.co

ボタンを押すだけで紫外線を使った高度な殺菌ができる専用クリーナーが付くEmmカップボタンを押すだけで紫外線を使った高度な殺菌ができる専用クリーナーが付くEmmカップ

テレビCMやアスリートが現状の問題を提起当事者が声を上げる社会

第一線で活躍する企業やスポーツ選手がスティグマを払拭していったケースの一部を紹介しよう。

「生理は普通、見せることも普通」

生理用品を販売する英ブランド「Bodyform」は生理のタブー視をなくすため、これまで有名仏俳優や米コメディアンとコラボし、さまざまな方法で生理をポジティブに捉える活動を長年行なってきた。なかでも2017年に行われた#bloodnormal キャンペーンの一環で制作されたテレビCMでは、ナプキンに青色でなく赤い液体を垂らし、リアルな生理を再現。これは事前に約1万人の男女を対象にオンライン調査を実施した結果、74パーセントの回答者が「生理をリアルに表現したい」と答えたからで、同社は「スティグマをなくすためには、目に見えないものを可視化することが大事」だと声明を出している。

白いショーツはもう履かない

生理中でも安心してより快適にスポーツをするために、女子サッカー・チームのマンチェスター・シティWFCは、選手からの意見を参考に、来シーズンからショーツの色を変更することになった。現シーズンの22年10月26日のブラックバーン戦では、それまでホーム・ユニフォームだった白からバーガンディー色のショーツを着用して出場。残りのシーズンはこの新しいショーツで試合に臨む。選手のパフォーマンスを引き上げることは英国女子サッカーのレベルを上げることに繋がり、ほかのクラブでも同様の動きがある。また、女子アスリートたちが生理について率直に語る投稿はSNSで#SayPeriodで検索してみてほしい。

バーガンディー色のショーツを着用し試合をするマンチェスター・シティWFCの選手たちバーガンディー色のショーツを着用し試合をするマンチェスター・シティWFCの選手たち

男性用トイレに衛生的な廃棄物容器の設置を

イングランドのラグビー選手、ルイス・ムーディーは、政府に対しスタジアムを含む公共の男性用トイレにも衛生製品専用のゴミ箱の設置を義務化するよう求めた。ムーディー選手は過去に患った潰瘍性大腸炎の影響で便失禁が起こるようになり、排便を自分の意思でコントロールできない状態に屈辱を感じて、チームメイトに打ち明けるのに時間がかかったという。私生活でも常に外出先のトイレの位置を確認しているそうだが、そのトイレにゴミ箱がないことで常にやりきれない思いを抱えていた。ムーディー選手に限らず、便失禁がある男性は英国に50万人以上いるとされるが、その多くはどんな治療の選択肢があるか知らず、失禁パッドを時限爆弾のように家に持ち帰るしかないという。政府は同キャンペーンを支持し、健康上のニーズを持つ男性への支援金として各カウンシルに最大3000万ポンドを提供している。

さまざまな価値観を知る授業初等・中等教育で学ぶ性と健康

現在の英国は多数の人種や信仰、LGBT+などが存在する複雑な社会だ。教育の現場ではどのようなことを教えているのだろうか。

現代社会に合わせた教育カリキュラム

教育省は2020年9月より、生徒が身体的にも精神的にも健康でいるための新しいカリキュラムを開始した。初等では家族や友人と健全な関係を築く関係教育(RE)が、中等では人間関係と性教育(RSE)が、そして全ての段階で健康教育が義務付けられている。初等での性教育は義務化されていないものの、多くの学校では性教育の授業が行われている。中等では同意に基づく性行為や、レイプといった性行為の上で想定されるあらゆる状況、そしてセクシュアリティーについて教えている。性犯罪などリアルな現実までも知ることで、早熟な子どもになることを心配する一部の保護者がいるようだが、教育現場では生徒が十分な知識を蓄えた上で正しい判断をできるようになることに重点を置いている。

一方で、性教育、特に生理について授業を行う自信がないと答える教師も一定数いる。その多くが女性教師で、自身が生理について十分な教育を受けてこなかった知識不足から来る不安や、生理= タブーという障壁を感じているのが、主な原因だという。教育者へのサポートの必要性も叫ばれている。

女性器の医学的、社会的知識を広める博物館

女性の体の問題について、人々が自信を持って話せるような意識改革と、その環境を作るために英国で誕生した世界初のVagina museum(ヴァギナ博物館)。解剖学をはじめとした、学校や家庭内での性教育に使える教材の無料ダウンロードはもちろん、生理に関する本を出版した著者のトークや中世のトランスジェンダーについて語るポッドキャストまで、女性の体を多角的かつユニークな手法で学べる博物館だ。

かつてロンドン東部のベスナル・グリーンにあったが、現在は移転準備中のため資料はオンラインのみで閲覧可。常設展は同サイトにて近日公開予定だが、楽しげな商品が並ぶオンライン・ショップは稼働中なので、ぜひ一度のぞいてみてほしい。

www.vaginamuseum.co.uk

ヴァギナ博物館のウェブサイトヴァギナ博物館のウェブサイト

生理、避妊、性病etc......広範囲にわたる医療サポート

最後に、国民医療サービスのNHSが行っている支援について見てみよう。女性だけでなく男性も受けられるサポートが多数ある。

性にまつわる不安はまずNHSのサイトをチェック

NHSの公式サイトには、病気や検査の名称から症状の詳細や自宅でできる治療、さらなるサポートが必要な場合の連絡先などが網羅された「Health A to Z」をはじめ、理想体重の保ち方や禁煙など健康に関する情報「Live well」、LGBT+の人々へ向けたカウンセリングや、うつ病などの病気の治療をサポートする「Mental health」などのカテゴリがある。サイトで生理(Periods)と検索すると、生理の概要から生理用品の使い方、月経前症候群(PMS)についての解説、生理に変化が見られたときの対処法がまとめられており、諸事情があって親に聞けない少女でも簡単にアクセスできる仕様だ。また、「Sexual healthservices」は性的指向に関係なく、全てのジェンダーが平等に誰でも無料で利用可能。性感染症(STI)に対するアドバイスや検査を行ってくれる専門のクリニックに13歳未満の人が尋ねた場合でも、本人の許可なしに保護者へ連絡が行くことはなく、プライバシーが守られる。

www.nhs.uk

ピルが無料でもらえる

避妊のため、生理不順、また生理が重いといったPMSや子宮内膜症の症状を和らげるためのピル(経口避妊薬、低用量ピル)は、英国ではCombined pillと呼ばれており、GPやSexual Health London.UK(SHL.UK)、一部の泌尿生殖器クリニック(GUM)、避妊クリニックで無料で入手できる。ピルは主に1パック21錠のMonophasic 21-day pills(1相性)、同じく21錠のPhasic 21-day pills(3相性)、21錠に加えホルモンが入っていないダミーの7錠を含む、計28錠のEvery day (ED) pills(毎日)の3タイプがある。医師との相談により、これらを組み合わせて調整したピルがもらえることもある。ただしこうしたピルは妊娠中や35歳以上の喫煙者、特定の薬を服用している、重度の偏頭痛持ち、高血圧、乳がんを経験している人など一部の人には適していない。また、頭痛や吐き気といった副作用の懸念があるので、服用を考えている人はまずはGPに相談してみよう。

www.nhs.uk/conditions/contraception/combined-contraceptive-pill
www.nhs.uk/conditions/contraception

(避妊の総合ガイド)

性病検査と緊急避妊

もし避妊具が機能していなかったり、性暴力を受けたときロンドン地域ではNHSのオンライン・サービスSHL.UKから、自宅できる性感染症検査キットや緊急避妊薬(アフターピル)を無料で注文できる。性感染症検査キットは症状が軽度またはない場合のみ取り寄せができ(症状があれば病院へ)、オンラインでのコンサルテーション後に郵送で自宅に届くシステム。血液などのサンプルを採ったのち、送られて来た箱に入れてポストに投函。結果はアカウントから確認できる。アフターピルの場合は、性行為から72時間以内用と120時間以内用の錠剤1錠がオンラインでのカウンセリング後に注文できる。ただし、これに関しては時間との勝負なので、最寄りのセクシュアル・ヘルス・クリニックやA&E、NHSのウォーク・イン、一部のGPと薬局でも入手ができることを覚えておいてほしい。

www.shl.uk

レイプや性的暴行後の支援

万が一レイプや性的暴行(sexual assault)を受けてしまった場合は、まず自分のせいではないことを心に留め、助けを求めることが大切だ。英国全土にある性的暴行照会センター(Sexualassault referral centres=SARCs)は、性被害を受けた人に医学面、精神面からサポートし、ヘルプラインは24時間体制となっている。また、警察に話す勇気が出なければ、スタッフが同センターの対応に特化した警察官と繋いでくれ、刑事司法制度を通じて相談者を全面的に支援してくれる。そのほかGP、Women's Aid、Victim Support、Male Survivors Partnershipなどの慈善団体や、24時間対応のRape Crisis England&Walesのヘルプライン0808 500 2222でも相談できる。また、ここ20年余りでアルコール飲料に、失神したり酩酊状態にさせる薬物を混入させるスパイク(spike)行為も増えている。こうした被害にあった場合はSARCsに連絡、暴行を受けたかわからない場合はNHSの111に電話を。

www.nhs.uk/service-search/otherservices/Rape-and-sexual-assault-referralcentres/LocationSearch/364

(最寄りのSARCsの検索)

https://247sexualabusesupport.org.uk

英国で中絶することになったら

もし望まない相手との性行為や、予定外のタイミングで、英国で妊娠してしまったらどうすればいいのだろうか。NHSの場合は無料でNHS病院または認可された診療所の管理下でのみ中絶手術ができ、プライベートの病院では有料で対応している。方法は、薬(abortion pill)を時間をおいて2回飲む方法と、外科的中絶の二つ。NHSでは、パートナーや友人、家族には中絶に対する発言権はなく、決定を決めるのは本人の意思のみだとしているため、中絶の決定に少しでも迷いがある場合は、必要に応じて妊娠や中絶に特化したカウンセラーと話し合うことができる。

www.nhs.uk/conditions/abortion
 

ロンドンのインディペンデント系書店 9選

すぐにでも足を運びたいロンドンのインディペンデント系書店 9選

最新情報はネットの方が早く、どの世代も本離れの時代になっている。そんななか、書店のあり方も変わり始めている。街に大型チェーンの書店が減少した一方、店主の選書のセンスが光る個性的な書店、より専門性を打ち出した店に注目が集まっている。今回は、こだわりを持ったロンドンの新旧の書店9店を紹介する。本も好きだが本屋の空間自体が好きという方にも足を運んでいただきたいところばかりだ。(文:英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: The Booksellers Association、 Bookshop.org、The Guardian、http://dotplace.jpほか

Libreria BookshopLibreria Bookshop
Pages of HackneyPages of Hackney
London Review BookshopLondon Review Bookshop
FreedomFreedom
HousmansHousmans
John Sandoe BooksJohn Sandoe Books
Review BookshopReview Bookshop
BookmongersBookmongers
Artwords BookshopArtwords Bookshop

書店をめぐる最近の動き

インディペンデント系書店は年々増えている

英国の書店協会(The Booksellers Association=BA)による2023年1月の調査では、現在英国のインディペンデント系書店の数は1072店。2021年の1027店、2016年の867店から着々とその数を増やしていることが分かる。個性より品ぞろえの多さを重視し、大きな売り場面積を誇ったかつてのチェーン系大型書店は影をひそめたが、それと入れ替わるように特色ある書店が次々に生まれている。新刊書ばかりを並べないだけでなく、ときには古本も同時に扱う店、ソファが置かれカフェを併設する店、レクチャーやワークショップ、展覧会を開催する店など、地域のカルチャー・ハブとなる要素を多く持つのが特徴だ。

便利なBookshop.orgとは

インディペンデント書店が増えているのはロンドンだけではなく、英国内のさまざまな地域でも同様の現象が起きている。BAのメリル・ホール氏によれば、パンデミックを機会にクラウドファンディングを使って書店経営に挑戦する人が一定数いるほか、利益共有プラットフォームBookshop.orgの存在も、インディペンデント書店の増加に影響を与えているという。Bookshop.orgはアマゾンに対抗して2020年1月に米国で立ち上げられたインディペンデント系書店の支援サービスで、同年10月に英国でも開始。私たちがアマゾンではなく同サイトで書籍購入すれば、書店側は売上げの全利益(カバー価格の30パーセント)を得ることが可能。カスタマー・サービスや配送は書店とその販売代理店が行い、配送に数日かかる場合はディスカウントが行われる仕組みだ。同サイトに登録されたさまざまな書店によるお勧めの1冊を知ることができるので、自分好みの書店を見つけるのにも便利なサービスといえる。

https://uk.bookshop.org

ロンドンのこだわり書店9件

考えるヒントが詰まった宝箱❶ Libreria Bookshop

壁いっぱいの鏡でスペースを広く見せているリブレリアの店内壁いっぱいの鏡でスペースを広く見せているリブレリアの店内
壁いっぱいの鏡でスペースを広く見せているリブレリアの店内壁いっぱいの鏡でスペースを広く見せているリブレリアの店内

ロンドン東部ブリック・レーンを1歩入った通りにある書店リブレリア。アルゼンチンの鬼才ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説「バベルの図書館」にインスパイアされたという店内は、曲がりくねった黄色い書棚と奥の鏡のせいで、一瞬迷宮に入り込んだような錯覚に陥る。コンパクトな店内に張りめぐされた棚には、政治から詩集までジャンルを問わず現代社会を考えるためのヒントが詰まった本が並ぶ。

スタッフに加え月替わりのブック・キュレーターによるお勧めが並ぶ本棚もあり、お気に入りの1冊を時間をかけて選びたいと思わせる。明るすぎない照明や小さなソファー・スペースがこじんまりしてフレンドリーな雰囲気を醸し出しているが、携帯電話の電源は切ってほしいとの張り紙もある通り、店内は静寂に包まれている。夜には不定期で詩の朗読会その他のイベントもあり。毎月スタッフの選んだ1冊が手元に届くサブスクリプション・サービスも行っている。

65 Hanbury Street, London E1 5JP
Tel: 020 3818 3240
火~土 10:00-18:00 日 12:00-18:00
Liverpool Street駅
https://libreria.io

平和主義を勉強する❷ Housmans

ハウスマンズでは「独裁者に立ち向かう方法」がスタッフのお勧めハウスマンズでは「独裁者に立ち向かう方法」がスタッフのお勧め

キングス・クロス駅からほど近い、政治や社会情勢関連の本を専門にする書店。ラジカル・ブックショップと名乗る通り、ストライキやデモを応援するだけではなく、実際に行動を起こすための書も目に付くほか、LGBTQ関連、差別や搾取など、現代社会のあらゆる問題に触れた本が並ぶ。

それもそのはず、同店は「平和誓約連合」(Peace Pledge Union=PPU)という英国を拠点とした平和主義を推進する非政府組織が運営する店。その歴史も古く、第二次世界大戦直後の1945年にオープンした。店名であるハウスマンズは、PPUを支援していた英劇作家でイラストレーターのローレンス・ハウスマン(1865~1959年)から来ている。PPUのモットーは、「いかなる種類の戦争も支持しないことを決意し、全ての戦争の原因を取り除くために努力する」。国内外であらゆる問題や紛争が起きている現在、店には解決のヒントを求めて多くの人が訪れている。

5 Caledonian Road, London N1 9DX
Tel: 020 7837 4473
月~土 11:00-18:30 日 12:00-18:00
King’s Cross St. Pancras駅
https://housmans.com

アートの今を知る❸ Artwords Bookshop

店内も外も人でにぎわうブロードウェイ・マーケットのアートワーズ店内も外も人でにぎわうブロードウェイ・マーケットのアートワーズ

ロンドン東部のブロードウェイ・マーケットはインディペンデント系書店の激戦地だが、アート系で雑誌も置いているのがアートワーズ・ブックショップ。ショーディッチのリヴィングトン・ストリートにあった本店が閉店となり、現在はブロードウェイ・マーケット店のみの運営となっている。センスの良いアート・ブックが並ぶほか、LGBTQなど今気になるトピックの書籍が店の中央に平積みに置かれ、店内はいつも若い人たちでにぎわう。

マーケットのある土日は特に混雑するので、ゆっくり本を選びたい場合は平日がお勧め。夜の8時まで営業しているので学校や仕事帰りでも立ち寄れる。また同店はアートワーズ・プレスという出版社も持ち、まだ数は多くはないものの、アーティストたちの著作を出版している。同店のように、小売業だけではなくインディペンデント・レーベルという形で自ら本も作る道を選ぶ書店は、これからも次第に増えていく可能性が高い。

20-22 Broadway Market, London E8 4QJ
Tel: 020 7923 7507
月~金 9:00-20:00 土・日 10:00-18:00
London Fields / Cambridge Heath駅
www.artwords.co.uk

古き良きロンドンに浸る❹ Bookmongers

かつては野良猫だったというポパイが店番をするブックモンガーズかつては野良猫だったというポパイが店番をするブックモンガーズ

1992年の創業以来、ブリクストンの街の移り変わりを見つめてきたブックモンガーズは、品ぞろえの豊富な古本屋。縦横無尽に置かれた書籍は哲学からSFまでどのジャンルもツボを押さえたセレクトだ。独特のボヘミアン的な店の雰囲気が魅力の一つで、看板猫のポパイが店内をゆっくりと徘徊する中で本を選ぶ時間は、せわしない日常を忘れさせてくれる。店の1番奥には隠れ家のような児童書スペースがあり、ソファーに座りポパイをなでながら本のページをめくることもできる。

店主のパトリック・ケリー氏は、20代のときに米東部ボストンからやってきてブリクストンの魅力に取りつかれ、そのままこの地で店を開いたという経歴の持ち主。ブリクストン愛にあふれるケリー氏の店は、昔と今のブリクストンの良さを伝える、コミュニティーのハブともなっている。なお、店の看板に犬の絵が描かれているのは、かつてローザというテリアが店を守っていたからだそう。

439 Coldharbour Lane, London SW9 8LN
Tel: 020 7738 4225
月~土 10:30-18:30 日 11:00-17:00
Brixton駅
https://bookmongers.com

本好きたちの隠れ家❺ John Sandoe Books

本好きが住みたくなるような空間、ジョー・サンドー・ブックス本好きが住みたくなるような空間、ジョー・サンドー・ブックス
本好きが住みたくなるような空間、ジョー・サンドー・ブックス本好きが住みたくなるような空間、ジョー・サンドー・ブックス

サーチ・ギャラリー近く、キングス・ロードを1歩入った小道にある英国らしい書店ジョン・サンドー・ブックス。まるで蔵書で埋め尽くされた読書家の住まいのようなこの店は、1957年の創業以来熱狂的なファンを持ち、その中には作家も少なくないとか。某劇作家からは「最近出た本をチェックするなら、この店のテーブルに置かれた本を見るのが1番」とまでいわれ、スタッフの感性と目利き能力には定評がある。

扱うジャンルは多岐にわたり、その数3万冊。スペースの関係で平積みになっている本は、1冊取りのけたら下から違う本が出てくることも。狭い木製の階段を上がると木の床にカーペットが敷かれ、ここにも本棚が立ち並ぶ。ロンドンのほかの書店に比べて翻訳文学が充実しているとされ、詩に関する書籍も多数。本選びに迷ったらスタッフに声を掛けてみよう。出合うべき1冊を紹介してくれるかもしれない。サブスクリプションなども行っている。

10-12 Blacklands Terrace, London SW3 2SR
Tel: 020 7589 9473
月~土 9:30-17:30 日 11:00-17:00
Sloane Square駅
https://johnsandoe.com

イベントも盛りだくさん❻ London Review Bookshop

ロンドン・レビュー・ブックショップは話題の本が探しやすいロンドン・レビュー・ブックショップは話題の本が探しやすい

大英博物館から一足のところにあるロンドン・レビュー・ブックショップは、隔週発行の書評誌「ロンドン・レビュー・オブ・ブックス」が2003年に創立した書店。明るく見やすい店内にはフィクション系を中心に2万冊が置かれ、日本をはじめとしたアジアの作家の翻訳本も多い。夜には作家を招いたトークやサイン会、レクチャーなどのイベントがあり、かつては川村元気氏も登壇し自著について語ったことも。地下には演劇関係の書籍や詩集のほか、バーゲンと札の付いた値引き本がある。

また、不定期でポッドキャストも配信しており、作家へのインタビューなど興味深いプログラムがある。併設されたカフェも人気で、特に2週間ごとに変わる季節感にあふれたランチ・メニューには定評がある。ここでは基本的に書店の本を買う前に読むことができることになっているが、席が空くのを待つ人が出るほど混み合うランチタイムの読書は避けた方が無難だ。

14 Bury Place, London WC1A 2JL
Tel: 020 7269 9030
月~土 10:00-18:30 日 12:00-18:00
Holborn/Tottenham Court Road駅
www.londonreviewbookshop.co.uk

地域コミュニティーに密着❼ Pages of Hackney

隠れ家のようなページズ・オブ・ハックニーの地下スペース隠れ家のようなページズ・オブ・ハックニーの地下スペース

2008年にオープンした小さな書店、ページズ・オブ・ハックニーは、フィクション、政治、フェミニズム、エッセイ、哲学、心理学、児童書など、さまざまなジャンルの本を販売している。その店名からも分かる通り、同店が目指すのは、本によって多様性やインクルージブネスに関する意識向上を推進し、地域を居心地の良いコミュニティーにすること。バックグラウンドの異なる地域住人一人ひとりに、「ここは自分のための書店だ」と感じてもらいたいと考えているのだそう。インディペンデント=少数派の書店ではなく、多様性の大切さに共感する全ての人たちのためにある書店、という発想だ。

また、出版において疎外されがちな著者の声にプラットフォームを提供するということで、地下で作家のトーク・イベントやブック・グループの集まりなどを開催。この地下はふだんブック・キュレイターによるお勧め本が並び、ソファが置かれた隠れ家的スペースだ。

70 Lower Clapton Road, London E5 0RN
Tel: 020 8525 1452
月~金・日 11:00-18:00 土 10:00-18:00
Hackney Central駅
www.pagesofhackney.co.uk

アナーキズムを学ぼう❽ Freedom

さまざまな団体のチラシやポスターが置かれたフリーダムの店内さまざまな団体のチラシやポスターが置かれたフリーダムの店内
入口には頑丈なドアが設置入口には頑丈なドアが設置

ロンドン東部、ホワイトチャペル・ギャラリー脇の暗い路地を1歩入ったところにひっそりと存在するフリーダム。まるでタトゥー・ショップのようにも見える外観だが、その実態は1886年から続くアナーキストのための機関紙「フリーダム」(2014年からはオンライン版のみ)や関連書籍を発行する出版社の経営する書店だ。1993年にはネオ・ファシスト集団から火炎瓶を投げつけられ、2013年にも放火されるなどの被害を受けたため、現在は窓ガラスやドアに鉄格子を取り付け物々しい入口になっている。

だが、思いのほか広い内部には、歴史や哲学、労働者の闘争、反ファシズムの本が並ぶほか、新聞やパンフレットなどが整然と置かれており、日本人が突然ふらりと入っても特に違和感はない。また、さまざまな政治スローガンの入った Tシャツ、バッジ、CD、ポスターも扱っているので、英国の労働運動の歴史を学びたい方は、ハウスマンズと共に訪れてみたい書店だ。

Angel Alley, 84b Whitechapel High Street, London E1 7QX
Tel: 0756 516 0446
月~土 12:00-18:00 日 12:00-16:00
Whitechapel駅
https://freedompress.org.uk

ペッカムのオアシス❾ Review Bookshop

ゆっくり本を選べる雰囲気のレビュー・ブックショップ。足元は人工芝ゆっくり本を選べる雰囲気のレビュー・ブックショップ。足元は人工芝

もともとはアフリカからの移民が多いとされながら、家賃の安さから若者たちが引越してきたことで最近注目度が増している、ロンドン南部ペッカムにあるレビュー・ブックショップ。同地に長年暮らすロズ・シンプソン氏が「全財産を投げうって」2005年にオープンした。こじんまりとした店内には自然光が降り注ぎ、明るく落ち着いた雰囲気。話題書はもちろん、現代文学と政治を中心に、スタッフが良いと思う本だけが丁寧に選ばれている。近年のロンドンでは小さな出版社が良質の海外文学を英訳出版することが増え、同店ではそうした本を積極的に紹介しているとのこと。

また、モレスキンのノートやバースデー・カード、ラッピング用の紙などもあり、書籍を誰かにプレゼントしたいと思ったらこの店だけで用事が済む。床は座り込んでしまいたくなる人工芝生。ドッグ・フレンドリーをうたっているので、芝生は顧客の連れてくる犬にも喜ばれているのかもしれない。

131 Bellenden Road, London SE15 4QY
Tel: 020 7639 7400
水・金・土10:00-17:00 木 12:00-17:00 日 11:00-16:00
Peckham Rye駅
www.reviewbookshop.co.uk
 

映画監督 飯塚花笑さん インタビュー

うわべばかりの日本社会に物申したい映画監督飯塚花笑さん インタビュー

これまでマイノリティーの認知や、多様性の意味を問う作品に取り組んできた飯塚花笑監督が、巡回映画上映会に再登場。最新作「世界は僕らに気づかない」にまつわる想いを語っていただいた。

KASHO IIZUKA 映画監督

KASHO IIZUKA

1990年生まれ、群馬県出身。トランスジェンダーである自らの経験を元に製作した「僕らの未来」で、2011年ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞を受賞。ロンドン・レズビアン&ゲイ映画祭など国外でも高い評価を得た。大学卒業後は「ひとりキャンプで食って寝る」(TV東京)に脚本で参加。2019 年には「トイレ、どっちに入る?」でフィルメックス新人監督賞準グランプリを獲得。2022年には初の劇場公開作品「フタリノセカイ」が話題を呼んだ。

今回上映される「世界は僕らに気づかない」では、日本にさまざまな人種の人たちが定着していることや、その多様性から起こる問題に焦点が当たっています。今、このテーマを取り上げた理由を教えていただけますか。

今日本では、東京オリンピックをきっかけに「多様性」(ダイバーシティー)を押し進めようという言論が目立ちます。しかし、法的にマイノリティーの存在を認める動きはなかなか進みません。そこで、この言葉は実体を伴ったものなのだろうかという疑問が湧き、こんなうわべばかりの日本社会に物申したいという思いから本作を製作しました。近年セクシュアル・マイノリティーをめぐる状況は大きく変わってきたといえますが、やはり人種の多様性に関してはなかなか議題に挙がりにくいと感じています。本作では日本に定住しているフィリピン人女性やフィリピンと日本人のダブルの方々にフォーカスし、日本の中にいる人種的マイノリティーの存在を明るみに出すことで問題提起になると考えました。そして純悟とレイナというキャラクターが誕生しました。

「世界は僕らに気づかない」の主人公はゲイという設定です。ちょうど10年前の作品「僕らの未来」ではトランスジェンダーをテーマにされていましたが、そのころに比べて日本でのLGBTQの認知は進んだと思いますか。

日本国内でLGBTQをめぐる環境は大きく変化しました。渋谷区がパートナーシップ制度を導入したことをきっかけに大きくメディアに「LGBTQ」というワードが取り上げられるようになり、映像や映画、ドラマの中にも多く表現されるようになりました。LGBTQという言葉が浸透すると同時に、差別や偏見は減少傾向にあると感じています。一方で法的な整備はまだ十分とは言えない状況で、根本的な解決はまだされていないと考えています。

英国、特にロンドンは多様性を尊重している街だといわれます。同地で「世界は僕らに気づかない」が上映される際、観客に作品のどんな点を観てもらいたいですか。

日本の現状を「外側からの視点」で観てもらうことはとても重要だと考えています。中にいては気づかないことも外から客観的に見ることで分かってくることがあります。日本国内で人種の多様性に関して語られない度合いは異常と言ってもいいほどだと考えています。観客の皆さまには、日本の社会の一部で起きていることをまず知ってもらい、どう感じたか、その声をぜひ届けていただきたいです。また、純悟とレイナの親子の関係に注意を払って観ていただければと。2人の出す答えにぜひ注目してください。

次回作は決定していますか。また、今後どのような作品を作っていきたいですか。

次回作ではトランスジェンダーの女性を主軸に据えた、日本の史実を基にした映画を製作します。この映画を世界中の方々に観ていただき、また積極的な議論を皆さんと行っていきたいです。今後は、日本国外で映画製作をしたいと思っています。しいて限定するならニッポン・コネクションでうかがったドイツや、映画祭Qシネマの開催国フィリピンなどですが、日本と国外の違いを肌で感じ、誰かと誰かの橋渡しのような存在となれればと願っています。

新旧の「名作日本映画」
21作品を一挙上映 >
 
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