ロンドン市内では、7月下旬から8月上旬にかけて、東日本大震災を受けて世界各国から送られた支援に対する感謝の気持ちを伝えるイベント「ジャパン・フェスティバル」が開催された。同フェスティバルの大会名誉会長として、「ありがとう」の文字を書き続けた書家の小林芙蓉氏に話を伺った。

小林芙蓉(こばやし・ふよう)氏
1976年から77年にかけてオーストラリア国立大学日本語学科で書と俳句を指導。楷書から行書、草書、前衛書まで含めた幅広い作品を制作。国際親善で多くの国を回り、「筆が織りなす日本の心」を世界に紹介している。
東日本大震災の発生時には何を思いましたか。
震災発生時には私は東京におりました。テレビを通じて映し出される悲惨な状況を見ながら思ったことは、まず「被災者の方々のお水はどうなったんだろう。食べ物はどうしているんだろう」ということ。また長期的には、水について考え直すきっかけになりました。書家にとって、水は非常に大切なものです。私は、日本や海外各地を回りながら良質の水を集めています。今、冷蔵庫に保管しているお水の種類は全部で680種。この680種のお水を使って、墨をするのです。それぞれの水やその配合具合によって、墨の出方が全く違うんですよ。ただその水が、この度の震災では大津波という形で凶器になったわけですよね。人の命を奪う脅威としての水の怖さを改めて思い知りました。

小林氏による「ありがとう」の文字が書かれた番傘
震災後はどのような活動を行っていましたか。
被災地を含む各地で自分の作品の展示会や講演会などを開いていました。そうした活動をしている最中に、今回、ロンドンで開催された「ジャパン・フェスティバル」の総合プロデューサーである井上康治氏と出会う機会に恵まれまして。その際に、被災地となった、すずりの生産量で日本一を誇る宮城県雄勝町に震災後に残ったというすずりを彼が同町から預かっているという話を聞いたのです。
私も普段から雄勝町のすずりを使用しておりまして、墨の当たり具合がとても良いんですよ。すずりは、雄勝町のものがやはり日本一でしょう。その雄勝町が被災したと聞いて、日本人の一人として、そして書家として、非常につらく思っていました。すると、井上氏が「復興のために雄勝町のすずりを使って文字を書いて、そして雄勝町に返しましょう」という提案をしてくれて。その一言を聞いて、書道家冥利に尽きる、と思いましたね。
被災者の方々とお話される機会はありましたか。
震災発生後に、岩手県釜石市を訪れたことがありました。バス停で涙をぬぐうお年寄りの姿を見たときに、「私たちのように生かされている者が何かできることはないだろうか」と思いましてね。その後も各地での講演会などを通じて、たくさんの方々の心や笑顔に触れることができたことがとても印象に残っていたので、それからは被災地で文字を書く際に「ありがとう」という文字を書くようになりました。

会場には、宮城県雄勝町に震災後に残ったというすずりと一緒に、
同町と友好関係を持つ、毛筆の生産で日本一の広島県熊野町の筆が展示されていた
「ジャパン・フェスティバル」の開催に合わせて渡英されて、最も印象に残ったことは何ですか。
井上氏から、東日本大震災に対する世界各国からの支援に対して感謝の気持ちを伝えるという趣旨の下で「ジャパン・フェスティバル」をロンドンで開催するという話を聞いて、すぐに参加を決意しました。そして、ここで私が書のパフォーマンスを行うという機会まで用意いただいて。陸前高田市気仙町に伝わる「けんか七夕太鼓」の演奏に合わせて「ありがとう」と書いたのですが、驚いたのが、私がこの文字を書き上げたときに太鼓の演奏もちょうど終わったこと。タイミングを合わせようと事前に打ち合わせをしていたわけでもなく、また時間を計っていたわけでもありません。ただ息がぴったりあったのです。これってすごいことですよね。
フェスティバルの開催期間中には「竜」という文字も書かせていただいたのですが、このときも驚きがありました。意図したわけでもないのに、文字の中に、鱗(うろこ)のような模様が現れたのです。意識して鱗模様を出そうとしても、絶対にできないでしょう。もしかすると、墨をする際に、ロンドンの水を混ぜて作ったことで生まれた作用かもしれません。

小林氏が「竜」の文字の中に現れた鱗模様
墨をする際に普段使っている水に含めたという、ロンドンの水道水についてはどのような印象を持ちましたか。
ロンドンの水道水は硬水ですよね。本当は、墨をするには軟水の方が適しているのです。正直なところ、硬水は墨をすりにくくするので、すずりには数滴だけ入れました。
また今回の渡英に際しては、温泉地として有名なイングランド南西部バースのお水を持って帰ろうと思っているんです。その水を被災地の温泉水と合わせて、まだ現在でもお風呂屋さんが不足している場所に寄付するという話を井上氏と一緒にしております。何と言っても、お風呂屋さんは皆の憩いの場ですからね。震災のニュースを聞いていて、お風呂が不足しているという話が一番印象に残りました。顔も髪も洗いたいだろうし、ゆっくりと湯船に浸かりたいだろうし。「お風呂に入る」って、日本に住んでいれば、当たり前にできる日常的な行為ですよね。でも被災者たちにとっては、その当たり前がないんですよ。
墨をすっていると、「この色が一番良い」というところでピカっと光ります。また墨は昔から病人や若い女性にすらせた方が良いと言われているくらい、デリケートなものです。春夏秋冬があって感性を養いやすい環境に囲まれながら暮らしている日本人は、墨や水といった、繊細さを求められる物の扱いに関心を向けてきたのでしょうね。そして、まさに今こそその感性を持って、他人の悲しみや苦しみを理解し、そして私たちにできることは何かということを考えるべきなのだと思います。

小林氏の作品展示会が行われたブロードゲートのウェルカム・センター

展示会に並べられた作品の中には、英字で書かれたものも
ジャパン・フェスティバルで開催された主なイベント
ウェルカム・コンサート
届け復興の響き」と題して、被災地となった岩手県陸前高田市気仙町に伝わる「けんか七夕太鼓」の保存会がロンドンの金融街シティで演奏

小林芙蓉展
「世界の人々と一緒に作る和心DAY〜世界の平和の祈願と日本の和文化を学ぶ一日〜」と題して、書家の小林芙蓉氏による「ありがとう」「絆」「結」などの作品を展示

縁ミュージアム
ロンドンのシティ地区ブロードゲート・サークルにて、東北に縁のある人々を取り上げた東日本大震災関連のパネル・動画・作文などを一般に公開。震災発生直後の状況から、復興の過程、被災地の人々の声や同地に寄せられた応援メッセージなどを紹介する展示物が並べられていた

伝えよう3.11「ありがとう」サミット
東日本大震災における米軍の災害救助・復興支援「トモダチ作戦」に深く関与したハーバード大救急科医師の有井麻矢氏(写真右端)を特別ゲストに迎えてのパネル・ディスカッションを実施

Special Thanks to Broadgate, the Welcome Centre



在留届は提出しましたか?





五輪開幕直前には、サッカー日本代表の待遇における「男女差別(Sexism)」について英各紙が取り上げた。これらの記事の内容は、ロンドン入りする直前の東京〜パリ間の移動において、男子代表はビジネス・クラス、女子代表はエコノミー・クラス(今回のパリ入りではプレミアム・エコノミー)を利用したというもの。「ガーディアン」紙に至っては「女子代表に比べて、男子はメダル獲得の可能性が少ないにも関わらず」といった厳しい見解を付け加えていた。
(写真)法華津選手を大きく取り上げた8月3日付「メトロ」紙の記事
ウェンロック(Wenlock)
マンデヴィル(Mandeville)




























































53歳で金メダルを獲得した、











































今年のプロムス、一番の目玉と言えば、何と言ってもベートーベンの交響曲全9曲をすべて演奏する「ベートーベン・サイクル」だろう。プロムス初の広大なスケールのプロジェクトで全曲の指揮を執るのが、アルゼンチン出身のユダヤ系ピアニスト / 指揮者、ダニエル・バレンボイム。イスラエル国籍を持つバレンボイムが、1999年にパレスチナ系米国人の友人と創設したウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団を率い、5日間をかけて壮大なベートーベンの物語を紡ぎ出していく。シリーズの最後を飾るのは、7月27日に演奏される交響曲第9番。年末年始におなじみの「歓喜の歌」が、オリンピックの幕開けを知らせる粋な演出だ。 
プロムスでは毎年、取り上げられるオペラ作品。安価に芸術に触れられるロンドンでも、オペラ鑑賞ともなれば、ときにチケット1枚数百ポンドの値が付くことも。しかしプロムスでは、大多数がコンサート形式とはいえ、一流音楽家たちのパフォーマンスを手頃な価格で楽しむことができる。
オリンピック開幕が近付くにつれ、大通りにはユニオン・ジャックが飾られ、関連グッズを始め英国を象徴するものが至るところで目に付くようになった。同時期に開催される今年のプロムスでももちろん、オリンピックやロンドンの街を意識した演目が目立つ。「ロンドン・プライド」と銘打たれたプロジェクトでは、コベント・ガーデンの花売りの女性がエレガントなレディに磨き上げられるまでを描くミュージカル「マイ・フェア・レディ」(Prom2)がセミ・ステージ形式で演じられるほか、18世紀上旬、バロック音楽の大家ヘンデルがときの国王ジョージ1世のテムズ河での舟遊びで演奏したという「水上の音楽」(Prom7)など、ロンドンに関わりのある曲の数々が披露される。
女王の即位60周年記念式典が終わり、オリンピック開催を目前に控えた7月。ロンドン中が愛国精神に充ち溢れる中で始まる今年のプロムスは、4人の英国人指揮者が聖火リレーさながらに指揮をバトンタッチしていくプロム1で幕を開ける。演奏されるのも、先述の「序曲『コケイン(首都ロンドンにて)』」や同じくエルガーの「戴冠式頌歌」、ティペットの「チャールズ皇太子の誕生日のための組曲」など、これぞ英国! な曲から、ディーリアスの「海流」など普段あまり耳にする機会の少ない作品、現代作曲家、マーク=アンソニー・ターネイジの世界初演曲まで、すべてが英国人作曲家の手による曲の数々だ。100パーセント英国色に彩られる一夜に、どっぷり浸ってみては。
発明家のウォレスと、しっかり者のビーグル犬グルミットが、何とプロムスに乗り込んできた! 世界中で大人気のクレイ・アニメ「ウォレスとグルミット」シリーズの主役2人が大暴れするプロムは、まさに小さなお子さんにはうってつけ。プロムスでの新曲発表の準備に追われる2人の様子を描いた新作アニメのほか、2008年にテレビ放映された「ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢」が、オーケストラの生演奏とともに上映される。また、米ニューヨークにある劇場街、ブロードウェイの息吹を伝えるプロム59では、「キス・ミー・ケイト」や「アニーよ銃を取れ」など、古き良き時代のミュージカル・ナンバーが次々と演奏される。肩ひじ張らずに、気軽にプロムスの雰囲気を味わいたい人はぜひ。
ホールの座席に着き、音が奏でられる瞬間を今か今かと待っているのに、なかなか始まらない── 実はこの静寂こそが曲だとしたら、観衆たちは一体、何を思うだろう。社会に音楽の持つ意味を問い掛けるような前衛的な曲を生み出し続けた米国出身の音楽家、ジョン・ケージの生誕100年を迎える今年、プロムスでは、ケージの曲をフィーチャーした2夜が用意された。プロム47では、グランド・ピアノの弦に金属や木片を挟んだり、載せたりすることで音に変化をもたらす「プリペアド・ピアノ」を用いる「プリペアド・ピアノと室内管弦楽のための協奏曲」などが披露される。またプロム44で演奏されるのは、「4分33秒」。演奏者が4分33秒の間、舞台上でひたすら沈黙を貫くという、音楽の定義を覆すケージの代表曲の一つだ。
スタッフ・ベンダ・ビリリ ──「外見の先にあるものを見よ」。そんな言葉をバンド名に定めたのは、コンゴ共和国出身の8人のミュージシャンたち。小児麻痺で下半身不随となった車いす生活者と元ストリート・キッズから成る彼らの音楽は、コンゴとキューバの音楽を融合させたコンゴリーズ・ルンバに、R&Bやレゲエ、ファンクの要素を取り入れたユニークなもの。「世界一有名な障害者バンドとは言われたくない」と語る彼らが奏でる旋律とリズムには、まさに剥き出しの魂の叫びが込められている。今回は、コンゴ生まれベルギー育ちで自らを「アフロピアン」と呼ぶラッパー、バロジとともにプロムスに登場。コンゴに根差した伝統音楽と欧州の風が混じり合ったときに生まれる化学反応に期待したい。
初めて訪れた人ならば誰もが目を奪われるであろう、広大な円形の空間。このロイヤル・アルバート・ホールの空間だからこそ堪能できる、ダイナミズムに溢れたプロムが2夜連続で演奏される。フランスのロマン派作曲家、ベルリオーズの「レクイエム」(Prom39)は、通常、バンダ(舞台外に設置されるアンサンブル)4組、ティンパニー8対など、巨大な編成が必要 とされる大曲。英国の人気若手テノール、トビー・スペンスがその壮大な音色に彩りを添える。また、翌日に演奏されるのは、オーストリア 出身のシェーンベルクによる「歌曲『グレの歌』」(Prom41)。スケールの大きさゆえに演奏される 機会が限られてしまう、このロマンティックな愛の物語を、複数の合唱団と世界各地で活躍するソロ歌手たちがホールいっぱいに響かせる。
約2カ月にわたり連日続いた音楽祭の最後の夜、ホールの中は、始まる前からサッカーの決勝戦にも似た高揚感に包まれる。日本人にもおなじみエルガーの「威風堂々」から、第2の国歌とも言われる「エルサレム」、そして英国国歌へと続くクライマックスは、まさに演奏者と聴衆が一体となって、その場にいる喜びをかみしめるひとときだ。ゲストは、今年3度目のプロムス出演となるヴァイオリニスト、ニコラ・ベネデッティと、マルタ島出身、澄みわたる高音が美しいテノール歌手、ジョセフ・カレヤ。クラシック音楽界の瑞々しい2つの才能が、プロムス最後の夜を華やかに締めくくる。また、ロンドンのハイド・パークでは、「プロムス・イン・ザ・パーク」と冠した野外コンサートも同時開催される。 



























